「ピカソの目」

私が医者だから思うのでしょうか。

読んだ瞬間にニンマリと笑ってしまった、面白いと思った詩があります。

茨木のり子さんの詩です。

「小さな発見」にとても共感しましたし、なるほどと感心もしました。

そして、最後の若い医師とのやり取りも目に浮かぶようで微笑ましくなります。

全編を紹介しますね。

 

 

  ピカソのぎょろ目

 

 ピカソのぎょろ目は

 一度見たら忘れられないが

 あのひとはパセドウ病だったに違いないと

 つい最近になって気がついた

 私も同じ病気にかかり

 ものみなだぶったり歪んだりして見える

 複視となって焦点がまるで合わない

 ピカソのキュービズムの元は

 これだったのかと へんに納得してしまったのだ

 立体を平面に描くための斬新な方法とばかり思っていたのに

 ある時期 彼は

 ものみなずれて ちらんぱらんに見えたに違いない

 女の顔も

 それを一つの手法にまで高めたのだ

 

 敵らしきものが入ってくると

 からだは反応して免疫をつくるのだが

 敵が入って来もしないのに

 何をとち狂ったか

 自分のからだをやっつける誤作動の指令

 自己免疫疾患

 甲状腺ホルモンがどばどばと出て

 眼筋までが肥大して眼球を突出させてしまうらしい

 

 ピカソへの不意の親近感

 小さな発見におもわれて

 美術史専門の数人に尋ねてみた

 「どこかにそういう記載はありませんか?」

 みんな

 「さあ…」

 といぶかしげ

 

 若い時に発病するものなのに

 今ごろになってこんなものが出てくるとは

 「私のからだはまだ若いということでしょうか?」

 冗談まじりに尋ねると

 「そう思いたければ

  そう思っていてもいいでしょう」

 と 若い医師は真面目に答えた。

 

 

 

 

 

ちなみに下の写真は42歳の頃のピカソです。

 

ピカソ

 

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