太宰治の初期の作品に「葉」があります。
覚書のような小編が、35編並んでいるもので、物語でもないので、読者はどう捉えていいのか迷うものですが、しかし、そこは太宰治です。散文詩かエッセイと思えばそう捉えられなくもないです。
全文が「青空文庫」にありますから、そこで無料で読むことができます。
リンクを貼っておきますね。
ここ → 「太宰治 『葉』」
そんなに長くありません。読むと冒頭と最後の部分は有名ですから、どこかで目にしたことがあるなと思い出す方も多いでしょう。
冒頭はこうです。
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
そして、最後の文は、まるで詩のようです。
生活。
よい仕事をしたあとで
一杯のお茶をすする
お茶のあぶくに
きれいな私の顔が
いくつもいくつも
うつっているのさ
どうにか、なる。
冒頭で死の願望を述べた同一人物とは思えない、開き直りともいえる潔さを感じます。
中身がどうであろうと、私はこの最後の8行が好きです。
仕事の終わりに、コーヒーを一服する時、この詩を思い出します。