「一日暮らし」で生きる

中部経典に「一夜賢者の教え」というものがあります。

 

ウイルアム・オスラー博士がエール大学の学生たちに向けた講演「今日一日の区切りで生きよ」にそっくりな教えです。

 

オスラー博士の講演の冒頭部分はこうでした。

 

「君たち一人一人は、この豪華客船よりもはるかに素晴らしい有機体であり、ずっと長い航海をするはずです。考えていただきたいのは、この航海を安全確実なものにするために、「一日の区切りで」生きることによって自分自身を調節することを学べということです。ブリッジに立って、とにかく大きな防水壁が作動している状態を見るといい。ボタンを押してみなさい。そうすれば、諸君の生活のあらゆる部分で鉄の扉が過去 ― 息絶えた昨日 ― を閉め出していく音が聞こえるでしょう。またもう一つのボタンを押して鉄のカーテンを動かし、未来 ― まだ生まれていない明日 ― を閉め出すのです。そうしてこそ、諸君は今日一日安泰です。(略)人が救われるのは今日という日なのです。」

 

 

そして、ブッダの言葉を伝える仏典の偈はこうです。

 

 

一夜賢者の教え

 

 

過ぎ去ったことを追うな

まだ来てもいないものを思うな

過去、それはすでに捨て去られたもの

未来、それはまだ到っていないもの

そうであれば、ただ現在のことをありのままに観察し

動揺することなく、それをしっかりと見極め、実践せよ

 

ただ、今日なすべきことを熱心に行え

だれが、明日死のあることを知ろう

だれも、死神の大軍と遭わずにいることはできない

よくよくこれらのことを見極めた者は

心をこめて、昼夜怠ることなく実践するだろう

このような人を「一夜賢者」といい

また、心静まれる者という

 

 

別の先人は「一日暮らし」という表現を使いました。

どんなに辛くとも、今日一日だけをよく生きようとすることはできるかも知れません。

先が見えない今のご時世、「一日暮らし」であることが、気持ちを支える秘訣になる気がします。