青空文庫で太宰治の「HUMAN LOST」を読むことができます。
こちら ⇢ 「HUMAN LOST」
太宰治の有名な「笑われて、笑われて、つよくなる。」という一文の出典の作品です。
あらすじとしては、慢性バビナール中毒(麻薬系鎮痛薬の依存症)と診断された太宰治が、妻や井伏鱒二から説得され、なかば強制的に入院させられたのがいわゆる精神病院でした。麻薬中毒患者として錯乱としか言いようのない精神状態でつづられる日記(その形式をとった手記)は、意味がうまくとれない箇所も多く、それこそ「HUMAN LOST」の様相を呈しています。
この作品を読み解くのはなかなか難しいのですが、それでは「笑われて、笑われて、つよくなる。」という言葉はいったいどんな場面で出されたかというと、それは突然に、唐突なタイミングで出てきます。
11月10日の日記です。(その日の全文を転載しますね。)
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十日。
私が悪いのです。私こそ、すみません、を言えぬ男。私のアクが、そのまま素直に私へ又はねかえって来ただけのことです。
よき師よ。
よき兄よ。
よき友よ。
よき兄嫁よ。
姉よ。
妻よ。
医師よ。
亡父も照覧。
「うちへかえりたいのです。」
柿一本の、生れ在所(ざいしょ)や、さだ九郎。
笑われて、笑われて、つよくなる。
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「笑われて、笑われて」とは、孤独を受け入れて、図太く生きる自分を再発見し、他者に依存しないで生きていく。
そこには、強制的に入院させられたと人間不信に陥った太宰治の、他者と自分との関わりの再構築がなされた、強い覚悟のようなものを感じます。
それよりも、私には「うちへかえりたいのです。」という言葉が特に印象に残りました。