宿直した朝は、セミの鳴き声で目が覚めるようになってきました。
発音膜いっぱいにこすり合わせてシャーシャーと騒がしく共鳴させて、大音量で響いてきます。
セミと言えば、中原中也の「蝉」という詩の抑揚が好きです。
この詩は「蝉が鳴いているほかになんにもない!」という言葉がとても印象的な詩です。
そういえば、はじめ人間ギャートルズのテーマソング「やつらの足音のバラード」の出だしの「なんにもない、なんにもない、まったくなんにもない!」の歌詞に似ていますね。
蝉
蝉が鳴いている、蝉が鳴いている
蝉が鳴いているほかになんにもない!
うつらうつらと僕はする
……風もある……
松林を透いて空が見える
うつらうつらと僕はする。
『いいや、そうじゃない、そうじゃない!』と彼が云う
『ちがっているよ』と僕がいう
『いいや、いいや!』と彼が云う
「ちがっているよ』と僕が云う
と、目が覚める、と、彼はもうとっくに死んだ奴なんだ
それから彼の永眠している、墓場のことなぞ目に浮ぶ……
それは中国のとある田舎の、水無河原という
雨の日のほか水のない
伝説付の川のほとり、
藪蔭の砂土帯の小さな墓場、
――そこにも蝉は鳴いているだろ
チラチラ夕陽も射しているだろ……
蝉が鳴いている、蝉が鳴いている
蝉が鳴いているほかなんにもない!
僕の怠惰? 僕は『怠惰』か?
僕は僕を何とも思わぬ!
蝉が鳴いている、蝉が鳴いている
蝉が鳴いているほかなんにもない!