「蝉」

宿直した朝は、セミの鳴き声で目が覚めるようになってきました。

発音膜いっぱいにこすり合わせてシャーシャーと騒がしく共鳴させて、大音量で響いてきます。

 

セミと言えば、中原中也の「蝉」という詩の抑揚が好きです。

この詩は「蝉が鳴いているほかになんにもない!」という言葉がとても印象的な詩です。

そういえば、はじめ人間ギャートルズのテーマソング「やつらの足音のバラード」の出だしの「なんにもない、なんにもない、まったくなんにもない!」の歌詞に似ていますね。

 

 

 

 

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかになんにもない!

うつらうつらと僕はする

……風もある……

松林を透いて空が見える

うつらうつらと僕はする。

 

 

『いいや、そうじゃない、そうじゃない!』と彼が云う

『ちがっているよ』と僕がいう

『いいや、いいや!』と彼が云う

「ちがっているよ』と僕が云う

と、目が覚める、と、彼はもうとっくに死んだ奴なんだ

それから彼の永眠している、墓場のことなぞ目に浮ぶ……

 

 

それは中国のとある田舎の、水無河原という

雨の日のほか水のない

伝説付の川のほとり、

藪蔭の砂土帯の小さな墓場、

――そこにも蝉は鳴いているだろ

チラチラ夕陽も射しているだろ……

 

 

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかなんにもない!

僕の怠惰? 僕は『怠惰』か?

僕は僕を何とも思わぬ!

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかなんにもない!

 

 2016-07-13 07.04.45

 

 

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