認知症には、よく耳にするアルツハイマー病のほかに、前頭側頭型認知症(FTLD)と分類される認知症があります。
これは、脳の一部(主に前頭葉、ときに側頭葉)の組織が、遺伝性または原因不明の変性によって発症する認知症です。
アルツハイマー病と比べると、人格、行動および言語機能への影響が大きく、記憶への影響は少ない傾向があります。
認知症患者の10人に1人がFTLDで、男女差はほとんどなく、典型例では65歳以下で発症します。
(MSDマニュアル家庭版より)
この認知症の診断には手間と時間がかかるため、患者さんの精神的、肉体的な負担がかかります。
しかし、最近の研究で、スマホ・アプリを使用した認知機能テストが、FTLDの診断を助け、病気の進行をモニタリングできる可能性が示されました。
この研究では、平均年齢54歳、女性が58.1%を占める359名の参加者を対象に、6種類の認知テストが行われました。
これらのテストは、従来の神経心理学的評価や脳容積測定と比較して、その信頼性と妥当性が示されたのでした。
これのメリットは大きいです。
まず、病院へ何回も受診する必要がなく、患者さん自身が都合の良い時間と場所でテストを受けられます。
これは、特に行動や運動機能に障害があるFTLD患者さんにとって喜ばれると思います。
さらに、病気の進行をリアルタイムで追跡することを可能にしますから、治療法の選択や治療効果のモニタリングに貴重な情報を提供します。
研究の成果は、FTLDだけでなく、アルツハイマー病やその他の認知症の診断においても、有効である可能性が示されました。
このテクノロジーは、病気の早期発見と治療に貢献することが期待されます。
しかし、スマホ・アプリを用いたテストにも課題はあります。
例えば、すべての患者さんがスマートフォンを使いこなせるわけではないという点です。
それでも、この新しい方法は、認知症診断の分野で大きな前進が期待されるものです。
今後は、さらに多くの研究が必要ですが、この技術が持つ可能性は計り知れません。
元論文:
Staffaroni AM, Clark AL, Taylor JC, et al. Reliability and Validity of Smartphone Cognitive Testing for Frontotemporal Lobar Degeneration. JAMA Netw Open. 2024;7(4):e244266. Published 2024 Apr 1. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.4266