高齢者の転倒のリスク要因

 

高齢者の転倒は、ある時突然にやってきます。

転倒自体が直接的な傷害を引き起こすだけでなく、日常生活での自信の喪失や活動の制限など、さらなる深刻な波紋を生み出してしまいます。

高齢者に「この前転んだから外を歩くのが怖い」と言われたら、こちらも運動の提案を慎重にならざるを得ません。

そのため、高齢者における転倒予防は、ただ単に身体的健康を守ること以上の意味を持ちます。

過去1年間に転倒を報告した人、転倒への不安がある人、または歩行速度が0.8~1 m/s未満の人は、転倒予防介入を受けるべきとされています。

またアメリカ国内の調査では、転倒の79%が家の中で発生し、最も一般的には寝室で起きています。

以前に転倒したことのある高齢者は、転倒しなかった高齢者と比べて、今後6〜24ヶ月以内に再び転倒する可能性が高いことも示されています。

平均リスクから高リスクの集団における59のランダム化比較試験(RCT)のメタ分析により、機能的運動による脚の力とバランスの向上が、転倒予防に推奨されています。

私たちが転倒予防に取り組む際、「多因子リスク削減」のアプローチが特に有効であることが指摘されています。

「多因子リスク削減」とは、複数のリスク要因に同時に対処することを意味します。

これには、身体的な運動の強化、家の安全性の向上、そして薬剤の見直しや減量が含まれます。

なかでも薬剤の減量は転倒予防における重要な戦略の一つとされています。

高齢者が使用する薬剤の中には、残念ながら転倒のリスクを高めるものが多く存在しています。

これらは、平衡感覚を損なうことから、直接的に転倒につながる可能性があるためです。

特定の薬剤、特に血圧降下薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬などは、転倒のリスクを高めます。

これらの薬剤は、起立性低血圧やふらつき、意識の混濁などを引き起こし、結果として転倒に至ることがあります。

ところが、高齢者の方々は、これらの薬剤の種類を減らすことをなかなか同意してくれません。

安易に睡眠薬を求めたり、逆に「今の睡眠薬は効かないからもっと強いものにして」と要求してくる方が多いのです。

医療者としては薬剤の必要性を再評価し、可能であれば減量や他の治療方法への変更を検討したいのですが、すすまないのが現状です。

薬剤の減量を成功させるためには、患者自身がこのプロセスに積極的に関与することが重要なのだと言います。

医師や薬剤師は、薬剤の減量がなぜ必要なのか、どのようなメリットがあるのかを患者に説明し、理解と協力を得る必要があります。

また、薬剤の変更に伴うリスクや不安を軽減するための支援も重要です。

最終的に、転倒予防は単一の対策ではなく、多面的なアプローチが必要です。

薬剤の減量はその一環であり、患者の生活全体に対する配慮とサポートが必要とされます。

 

元論文:

Colón-Emeric CS, McDermott CL, Lee DS, Berry SD. Risk Assessment and Prevention of Falls in Older Community-Dwelling Adults: A Review. JAMA. Published online March 27, 2024. doi:10.1001/jama.2024.1416