口腔の健康と認知機能

「衣食住」につながるものは欠かすことができませんし、人の体のはたらきも、それに関わるものは重要な位置づけになりますね。

例えば、食べること。

食べることの最初の入り口は、「口」です。

この口腔のはたらきが、認知機能に影響を及ぼしていることが、明らかになりました。

この研究は、高齢者の口腔機能と認知症の発症リスクとの関連性を探るものです。

75歳以上の高齢者7384人を対象に、2018年から2021年までの3年間、認知症の発症と口腔機能の関係を追跡調査しました。

参加者は全員、調査開始時点で認知症ではなく、その後のフォローアップで認知症の有無が評価されました。

口腔機能としては、咀嚼(そしゃく)機能、舌や唇の機能、そして嚥下(えんげ)機能がとりあげられました。

これらは日常生活で自然と行われる動作ですが、その一つ一つが実は私たちの脳の健康に密接に関わっているのです。

研究の結果、いくつかの発見がありました。

まず、フォローアップ期間中に415人(全体の約6%)の参加者が新たに認知症と診断されたこと。

そして、嚥下機能が低下している人は、そうでない人に比べて将来的に認知症を発症するリスクが高いことがわかりました。

さらに、日常的な歯科健診を受けていないこと、1日に2回以上歯を磨かないこと、虫歯があることも、認知症のリスクを高める要因として挙げられました。

これらの発見は、口腔健康が単に歯や歯茎の問題にとどまらず、私たちの全体的な健康、特に脳の健康に密接に関連していることを示しています。

嚥下機能の低下が認知機能に影響を与える理由の一つとして、嚥下動作が脳の活性化につながり、脳への血流量を増加させるため、その機能低下が脳への血流低下を引き起こし、認知症リスクを高める可能性が考えられます。

この研究から得られる教訓は明確です。

私たちは、日々の口腔ケアにもっと注意を払い、定期的な歯科健診を受けることの重要性を再認識する必要があります。

また、健康な食生活を心がけることで、嚥下機能の維持にも寄与することができます。

認知症は多くの場合、予防や早期発見が鍵となります。

そのためには、身体の「入り口」である口の健康が、想像以上に大きな役割を果たしているのです。

 

元論文:

Iwai K, Azuma T, Yonenaga T, et al. Longitudinal association of oral functions and dementia in Japanese older adults. Sci Rep. 2024;14(1):5858. Published 2024 Mar 11. doi:10.1038/s41598-024-56628-8