紫外線消毒が広まらない理由

 

コロナ禍では、「空気」が敵になったかのような感覚に襲われました。

パンデミックが世界を変え、私たちの日常に「見えない敵」との闘いが根づきました。

今はあまりしなくなりましたが、外出する際には携帯用の消毒スプレーなどをバッグに持参していたものです。

この機会に、新たに医療施設向けの空気洗浄機や紫外線照射機などを導入した診療所もあると聞きます。

この「紫外線」による消毒は、最近ポッと出てきたものではなく、実は約100年前から知られているものです。

紫外線にはUV-A、UV-B、そしてUV-Cの3種類があります。

太陽から降り注ぐのは主にUV-Aと少しのUV-Bで、これらは皮膚や目に害を及ぼし、がんの原因となることで知られています。

しかし、皮肉なことに、これらががんを引き起こすのと同じメカニズムが、ウイルスや細菌のDNAを破壊し、その増殖を阻害するのです。

この発見は19世紀末にさかのぼりますが、UV-Cを用いた消毒研究は何十年にもわたって行われてきました。

1940年代、研究者たちはUV-Cを用いた照射機を教室に設置しました。

その結果、はしかに感染した子供の割合が大幅に減少したという報告があります。

また、後の研究では、結核に対するUV-Cの効果も確認されています。

最近では、人体に害を及ぼさない far-UV-Cが研究されています。

この光は非常に低い波長を持ち、皮膚を深く貫通することなく、ウイルスや細菌を効率的に殺菌できるのだそうです。

2020年の研究では、 far-UV-Cがコロナウイルスを99%、黄色ブドウ球菌を98%殺菌することが示されました。

しかし、なぜこの技術はまだ広く普及していないのでしょうか?

答えは「安全性」と「オゾン生成」にあります。

 far-UV-Cが人体に害を及ぼさないと一般に受け入れられているものの、地上近くでの使用はオゾンを生成し、これが呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性があるからです。

この問題に対して、まだ完全に解決したわけではないということですね。

それでも、 far-UV-Cの将来性は大いに期待されています。

だからこそ、これらの新しいツールの安全性と効果を十分に理解し、賢く利用することが私たちに求められています。

 

元論文:

Buonanno M, Welch D, Shuryak I, Brenner DJ. Far-UVC light (222 nm) efficiently and safely inactivates airborne human coronaviruses [published correction appears in Sci Rep. 2021 Sep 27;11(1):19569]. Sci Rep. 2020;10(1):10285. Published 2020 Jun 24. doi:10.1038/s41598-020-67211-2