ドーパミンの新たな役割

 

このブログで紹介する心理学分野の論文では、「ドーパミン」はほとんど常連と言ってもいいぐらいに頻出する脳内ホルモンですね。

ドーパミンは、「快感」や「多幸感」、「意欲」などの役割を担いますし、どちらかというとポジティブなイメージです。

今日紹介する研究は、その一面だけではない、もっと複雑で深い役割をドーパミンが持っていることを示しています。

研究チームは、神経学的あるいは精神医学的な問題のない26名のボランティアを対象に、コンピュータベースの課題をしてもらいました。

参加者は、隠された数字が5より高いか低いかを予想するゲームに挑戦し、途中でゲームのルールが予期せず変更されるという設定を「仕掛けられ」ました。

この設定は、私たちが日常生活で遭遇する「予期せぬ状況の変化」をシミュレーションしたものです。

ルールが変更されたとき、脳の線条体という部分でドーパミンの放出が顕著に増加することが観察されました。

これは、ドーパミンが単に快楽や報酬に関連するだけでなく、新しい状況に適応するための戦略を見直すための重要なシグナルとして機能することを示しています。

新しいルールに迅速に適応できた人ほどドーパミンのレベルが高かったという事実から、ドーパミンがエラーから学び、決定を調整する能力と深く関連していることがわかりました。

しかし、ドーパミンの放出量が「ちょうどよい」ことが、タスクの遂行において最も効果的であることも明らかになりました。

過不足なく適度なドーパミン放出が、新しい情報に対する適応に最も有益であるという結果です。

 

私たちの日常は予測不可能な出来事で満ちています。

その変化の中で常に最適な解を求め、未知の状況に対応するために、私たちの脳は進化してきました。

ドーパミンのような快感や報酬に結びついている脳内化学物質が、羅針盤のような役割を担っているのは、とても興味深いことですし、考えてみれば、ある意味当然のことなのかも知れませんね。

 

元論文:

Grill F, Guitart-Masip M, Johansson J, et al. Dopamine release in human associative striatum during reversal learning. Nat Commun. 2024;15(1):59. Published 2024 Jan 2. doi:10.1038/s41467-023-44358-w