マンガ「はたらく細胞」のおかげで、外来でも白血球やリンパ球の話がしやすくなりました。
私たちの健康を守るために、これらの細胞は静かに力強くはたらいています。
特に、好中球とリンパ球、この二つの細胞は私たちの身体を病原体から守る重要な役割を担っています。
人間の体のことを知れば知るほど、バランスがいかに大切か、そしてそのバランスを保つためにどんなに微妙なシステムが機能しているかと感心します。
そして、この好中球とリンパ球の二つのバランスが示すものが、ただの風邪や感染症のリスクだけではないことが、最近の研究で明らかになってきました。
今回、紹介するのは、過体重(太りすぎ)の維持血液透析患者を対象に行われた研究です。
過体重というと、心臓病や糖尿病、高血圧などの原因となります。
しかし、この研究では、過体重がもたらす別のリスク、サルコペニアに着目しています。
サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少や筋力の低下を指し、高齢者の健康と自立に大きく影響します。
(ギリシャ語の「筋肉」を表す“サルコ”と、「喪失」を表す“ペニア” を組み合わせた言葉です。)
研究者たちは、好中球リンパ球比(NLR)とサルコペニアの関連性に注目しました。
NLRは、好中球の数をリンパ球の数で割った値で、体内の炎症の程度を示す指標です。
たとえば、感染症やがん、炎症性疾患などがある場合、体は感染や異物に対抗するために好中球の数を増やすことがあります。
一方で、リンパ球は主にウイルス感染や長期的な免疫応答に関わるため、好中球が増加するときリンパ球が相対的に減少することがあり、その結果NLRが上昇します。
したがって、NLRが高いと、体内で何らかの炎症やストレスが起きている可能性があり、医療現場ではこれを様々な病状の指標として利用しています。
研究者たちは、過体重の患者さん272人を対象に、NLRとサルコペニアリスクの関連を調査しました。
すると、過体重群においてNLRが高いほどサルコペニアのリスクが高まることがわかりました。
この結果は、過体重が単に体重の問題ではなく、筋肉の質と量にも深刻な影響を及ぼす可能性があることを示しています。
特に、血液透析を必要とする患者さんの場合、過体重がサルコペニアリスクを高め、さらに健康問題を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
しかし、この研究はまた、NLRを用いることで、サルコペニアのリスクを早期に評価し、予防策を講じることが可能であることを示唆しています。
適切な運動や栄養管理を通じて、筋肉量を維持し、健康を守ることが、これからの高齢化社会においてますます重要になってくるでしょう。
私たちは、体重の数字に一喜一憂するだけでなく、その背後にある健康リスクにも目を向ける必要があります。
過体重という「見える敵」に立ち向かうだけでなく、サルコペニアという「見えない敵」にも注意を払う必要があります。
元論文:
Nie H, Liu Y, Zeng X, Chen M. Neutrophil-to-lymphocyte ratio is associated with sarcopenia risk in overweight maintenance hemodialysis patients. Sci Rep. 2024;14(1):3669. Published 2024 Feb 14. doi:10.1038/s41598-024-54056-2