人の性格は腸内の微生物に支配されている?

 

瀬名秀明「パラサイト・イヴ」は、利己的遺伝子であるミトコンドリアが、生物に寄生して、その宿主を意のままにコントロールするというホラー小説でした。

そこまで極小のお話ではありませんが、細菌やウイルスが、私たちの感情や行動に影響を与えているとしたら?というお話です。

演者のキャスリーン・マコーリフは、アメリカのサイエンスライターで、以前には「「心を操る寄生生物―感情から文化・社会まで」という本を執筆していました。

 

私たちの体内には、私たちのDNAとは違う細胞が約半数存在しています。

つまり、これらは細菌、原生動物、真菌などから成る、目には見えないけれど、確かに存在している共生者たちです。

特に腸内にはこれらの微生物が豊富に存在し、私たちの消化を助けるだけでなく、様々な重要な機能を担っています。

最近よく言われているのは、これらの微生物たちは私たちの脳ともネットワークを構築していて、つまり「会話」をしているのです。

気分、エネルギー、食欲、記憶、そしてもしかすると性格まで、影響を受けているかもしれません。

実験室の中で、特別な環境下で育てられた「バブルマウス」というマウスは、私たちにこの微生物の影響を具体的に示してくれます。

このマウスは微生物を一切持たず、その結果、通常のマウスとは全く異なる行動を示します。

興味や好奇心が著しく低く、学習能力も低下しています。

しかし、通常のマウスから腸内細菌を移植すると、これらのマウスの行動は「正常化」します。

この現象は私たち人間にも当てはまるのでしょうか?

いくつかの研究は、「Yes」と言っています。

例えば、肥満体質の人の腸内細菌をバブルマウスに移植すると、マウスは太り始めます。

また、鬱状態の人からマウスへ腸内細菌を移植すると、そのマウスも鬱に似た症状を示します。

腸内細菌は、神経伝達物質を含む多くの化合物を産生し、迷走神経や血液循環を通じて脳に信号を送ります。

さて、この発見は私たちに何を教えてくれるでしょうか?

まず、私たちの心や体は、決して自分の意思だけでコントロールしているわけではないということです。

私たちは多種多様な微生物との共生の中で生きており、その影響は思った以上に大きいのです。

また、この発見は新たな治療法の可能性をも示唆しています。

迷走神経刺激療法や腸内フローラを調整することで、精神的な疾患や自閉症、さらにはパーキンソン病やALSといった神経変性疾患の治療に新たな道が開かれるかもしれません。

この探求はまだ始まったばかりですが、私たちの「私」とは、実は「私たち」であることを思い出させてくれます。

私たちの行動や感情、さらには健康に至るまで、見えない小さな共生者たちが影響を与えているのです。

科学が進むにつれ、私たちの「共生者」とどのようにより良い関係を築いていくかが、これからの大きな課題となりそうです。