瞑想と腸内環境(細菌叢)

 

いろいろな文献を読んでいると、「マジか?」と思えるようなものに出くわします。

研究の発想が面白いものや、「そこまでやるか!」と唸ってしまうようなものもあって、研究者たちの偉大な知識欲に脱帽するばかりです。

今日紹介する研究は、どちらかというと「そうなのか!」の後に「だけど、なんで?」と、謎が謎を呼ぶような感じでした。

例えば、「長期間の瞑想が、『お通じ』にどんな影響を与えるか」という命題を与えられたら、どんな予想をたてますか?

瞑想は、自律神経に良い影響を与えるでしょうし、きっと「お通じ」にも良いはずだと思いますよね。

私も思いました。

ただ、この研究チームの着手方法と着地点が違っていました。

彼らは、チベットの僧侶たちの腸内細菌叢の構成を調べたのです。

最近は、腸内細菌叢を調べるのが流行りではあるのですが、この発想はなかったです。

研究者たちは、腸内の微生物群に、長時間の瞑想がどのような影響を与えるかにフォーカスしました。

上海交通大学医学院の孫穎(Ying Sun)率いる研究チームは、チベットの遠隔地にある修道院を訪れ、37人のチベット仏教僧と19人の瞑想を行わない近隣住民から便のサンプルを収集しました。

僧侶たちは平均約19年間瞑想を続けていました。

研究者たちは、便のサンプルから細菌のDNAを分析し、サンプルに存在する細菌を識別・比較するために一般的に使用される16SリボソームRNA遺伝子に焦点を当てました。

この方法により、腸内の異なる細菌の多様性と豊富さを決定することができました。

さらに、腸内細菌の違いが健康にどのような影響を与えるかを探るため、参加者の血液中のさまざまな生化学指標を測定しました。(つまり健診をしたのです。)

分析の結果、瞑想を行う僧侶とそうでない人々の間には、腸内細菌の構成に違いがあることが明らかになりました。

特に、僧侶の腸内細菌は多様性が少ないものの、健康に良い影響を与える特定の細菌がより多く存在していました。

例えば、プレボテラ属の細菌は僧侶の腸内細菌の42.35%を占め、瞑想を行わない対照群では29.15%でした。

これらの細菌は、うつ病のリスクを減少させたり、脳の報酬反応に影響を与えたりすることが知られています。

さらに、瞑想は、腸のバリアを維持し、免疫反応を調節する代謝経路を確立させていました。

これは、瞑想が抗炎症プロセスを強化して、免疫機能を向上させる可能性があることを示しています。

もちろん、チベットの僧侶と近隣住民との違いは瞑想だけでなく、高地での生活の様式も違いますし、何より食生活が違います。

もしかしたら、飲み水も違っているかも知れません。

私などはへそが曲がっていますから、「瞑想じゃなくて、禅寺の精進料理が理由じゃないの?」と思ってしまいます。

瞑想(マインドフルネス)のメリットは、精神的・身体的に多くの例があがっていますが、これはさすがに我田引水が過ぎるんじゃないのと思ってしまうのです。

けれども、「腸脳力」というぐらいですから、瞑想が腸の細菌叢に影響を与えるというのは、もしかしたら「あり」なのかも知れません。

 

元論文:

Sun Y, Ju P, Xue T, Ali U, Cui D, Chen J. Alteration of faecal microbiota balance related to long-term deep meditation. Gen Psychiatr. 2023;36(1):e100893. Published 2023 Jan 3. doi:10.1136/gpsych-2022-100893