目標達成のためのモチベーション:報酬の二面性を探る

 

病院の勤務時代を思い出すと、忘年会などで盛り上がったのは、各セクションからの賑やかな催しものでした。

バンド演奏やダンスなど、プロのメンバーが絶対いるだろ!と思うほどの出来栄えで、とても感動したのを覚えています。

優勝した団体への賞品も、家電製品や航空券、ホテル宿泊券など、かなり豪華でした。

賞品が目当て?というだけでもないでしょうが、実力のない人たちにとっては練習のモチベーションにはなっていたかも知れません。

今日は、そんなモチベーションと報酬のお話です。(2011年の研究なので、あちこちで引用されている論文です。)

この研究は、学校で学生たちによるレース(競走)を実施し、異なる報酬レベルが学生のパフォーマンスと脱落率にどのような影響を与えるかを調べたものです。

学生たちは、過去のパフォーマンスに基づいて同じ能力の学生と対決する「Time Matched」と、完全にランダムに対決する「Randomly Matched」、2つのグループに分けられました。

そして、賞品がない場合、少しの賞品がある場合、大きな賞品がある場合、と報酬を変えて競走をさせたのでした。

その結果が興味深いのです。

報酬がない場合や少しの報酬がある場合、ほとんどの学生が競走を最後までやり抜きました。

しかし、大きな報酬がかかった競走では、Time Matchedの直接対決では35%、Randomly Matchedでは42%の学生が途中で諦めてしまったのです。

逆に、間接的な対決(一人で走り、タイムで順位を決定)では、報酬の大きさに関わらず脱落者は0でした。

これからわかることは、大きな報酬は私たちをがんばらせるけれど、同時に余計な期待も抱かせてしまうということです。

競争に勝てないと感じた時、その期待値があまりにも大きいと、人は挑戦を諦めやすくなります。

たとえば、あなたが参加するバンドコンテストで、優勝すると全国大会に出場できると言われたとします。

この大きな報酬に向けて、熱心に練習に励むでしょう。

しかし、予選を通過することが難しいと感じ始めたら、練習をあきらめてしまう人も出てくるかもしれません。

これが「パフォーマンスと脱落のトレードオフ」という現象です。

けれども、競争の形式が間接的なものであれば、同じ報酬でも脱落者は出なかった。

つまり、勝ち負けが目に見えないと、最後まで挑戦しようという気持ちが維持されるのですね。

この研究から得られる教訓は、報酬が私たちを動機づける力はあるものの、あまりに大きな報酬は反対に脱落を促してしまう可能性があるということです。

つまり、目標を達成するための動機づけには、適切なレベルの報酬が重要で、最後まで挑戦を続けられるような環境を整えることが大切だということです。

 

元論文:

Chaim Fershtman, Uri Gneezy, The Tradeoff between Performance and Quitting in High Power Tournaments, Journal of the European Economic Association, Volume 9, Issue 2, 1 April 2011, Pages 318–336,