「百薬の長」としての適量

 

「百薬の長」という表現は、一般的に「酒」を指す言葉として使われます。

この成句は、中国の古典文学にその起源を持ち、特に「酒は百薬の長」という形で引用されることが多いです。

この言葉の出典は、『後漢書』にある「杜康伝」に遡ります。

『後漢書』は中国の東漢時代を記録した歴史書で、その中の「杜康伝」は、伝説的な酒造りの祖とされる杜康について語った部分です。

そこでは、杜康が酒を造り、その酒が人々に愛されたことが記されています。

そして、「酒は百薬の長」という言葉は、酒が多くの薬よりも優れた効能を持つという意味で使われました。

ただし、この表現はあくまでも比喩的なものです。

日常生活において「百薬の長」という表現は、酒の楽しみやその持つ独特の価値を指す際に用いられますが、医学的な観点からはその使用に慎重さが求められます。

特に、過剰な飲酒が健康に及ぼす悪影響は多くの研究で示されています。

昨年3月に、日常的なアルコール摂取と全死因死亡リスクとの関連について調査した研究が報告されました。

1980年から2021年までに発表された107件のコホート研究を分析し、484万人以上の参加者と42万5000件以上の死亡を含んでいます。

論文では、「低量」のアルコール摂取を1日あたり約15グラム以下と定義しています。

これは標準的な日本のビール中瓶(約500ml)1本未満、またはワイン1杯(約150ml)未満に相当します。

「中量」摂取は、1日15~30グラム、つまりビール中瓶1本から2本未満、またはワイン1~2杯に相当します。

論文の分析によると、これらの摂取量では全死因死亡リスクに有意な影響は観察されませんでした。

しかし、女性の場合、アルコールを飲むことが全死因死亡リスクを増加させる可能性が示唆されています。

具体的には、女性飲酒者の死亡リスクは、非飲酒者と比較して約7%高かったとされていました。

 

元論文はこちら:

Zhao J, Stockwell T, Naimi T, Churchill S, Clay J, Sherk A. Association Between Daily Alcohol Intake and Risk of All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-analyses. JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e236185. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.6185. Erratum in: JAMA Netw Open. 2023 May 1;6(5):e2315283. PMID: 37000449; PMCID: PMC10066463.