リラックスとリスクの間:座り続けることと抑うつ

静かな部屋でのテレビ鑑賞や心地良いソファでの読書など…。

このような平穏な時間が、「実は抑うつへの一歩となることがある」という研究があります。

私たちの精神的受動性が、どのようにして心の健康を左右するのでしょうか?

 

元論文はこちら→

Werneck AO, Owen N, Araujo RHO, Silva DR, Hallgren M. Mentally-passive sedentary behavior and incident depression: Mediation by inflammatory markers. J Affect Disord. 2023;339:847-853. doi:10.1016/j.jad.2023.07.053

 

この研究はイギリスで行われました。

研究者たちは、1958年生まれの成人を対象に、彼らの座位行動と抑うつの関連性を調査しました。

特に注目されたのは、精神的に受動的な座位行動―テレビを見るなど―と、それが抑うつ症状の発生にどのように関連しているかでした。

「受動的」というのは「受け身」であるということです。

つまり、つけっぱなしのテレビを何の気なしにずっと見ているようなものです。

研究の結果は、なかなか興味深いものでした。

受動的な座位行動は、抑うつのリスクを高めることが明らかになりました。

具体的には、このような行動により、抑うつ発症のリスクが43%高まるという結果が出たのです。

では、このリスク増加の背後には何があるのでしょうか?

ここで重要な役割を果たすのが、私たちの身体です。

研究では、ウエスト周囲径と炎症マーカーであるC反応性タンパク質(CRP)が、このリスク増加の一部を説明することが示されました。

つまり、受動的な座位行動が肥満や炎症を引き起こし、それが抑うつリスクを高めるというメカニズムが存在していたのです。

昔、昭和の子ども達が親にしつこく「テレビばっかり見てないで、外で遊んできなさい!」という叱責が、的を得ていたということになりますね。

しかしこの研究には、まだ解明されていない部分も多くあります。

受動的座位行動と抑うつの関連性は、体のサイズや炎症のレベルを通じてのみ説明されるわけではありません。

とはいえ、この研究は、私たちの生活習慣が心の健康に及ぼす影響に新たな光を当てているのだと思います。

つまり、ソファでの時間を少し減らし、身体を動かす時間を増やすことが、心の健康を守る一つの鍵となるのかもしれません。

座る時間とその質が、心にどのように影響するか。

人間の心と体というのは、ずっと座りっぱなしでいられるようには作られていないのかも知れませんね。