研究とは、時には「当たり前」を「確かなもの」に変える手段となります。
例えば、「短距離のトップランナーは筋肉質、長距離ランナーはスリム」いうのは、誰もが持っているイメージですね。
100mのウサイン・ボルト選手やマラソンのキプチョゲ選手が、それの代表格です。
人々が「当然」と思うかもしれないそのような情報も、科学的な裏付けがなければ確証にはなりません。この研究は、その「確証」を提供しています。
今回の論文は、その一例です。
元論文はこちら→
Stachoń, A., Pietraszewska, J. & Burdukiewicz, A. Anthropometric profiles and body composition of male runners at different distances. Sci Rep 13, 18222 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-45064-9
この研究は、大学の運動選手68人(短距離走者26人、中距離走者22人、長距離走者20人)の体型と体組成について詳細に調査しました。
結果として、それぞれの距離で活躍する選手たちの体は、異なる特性を持っていることが明らかになりました。
短距離走者は、一般的に体格が大きく、筋肉が発達しています。(私たちのイメージ通りですね)
下肢は短く、その代わりに肩幅は広く、腰は狭い。これが短い距離で爆発的なスピードを出すための最適な体型なのです。
一方で、長距離走者は全く逆。体はスリムで、下肢は長く、皮下脂肪や細胞外質が多い。これにより、長い距離を効率よく走り続けられるのです。
面白いのは、中距離走者たちの体型です。
彼らは「最もスリム」であり、体幹が細く、皮下脂肪が少なかったのでした。
なぜなら、中距離は短距離と長距離の中間であり、スピードと持久力のバランスが求められるからです。
彼らの体型は、そのような要求に最適に応える形に自然と進化していたのでした。
この研究では、主成分分析という手法を用いて、これらの体型の違いがどれだけパフォーマンスに影響を与えるのかも詳しく調査されました。
その結果、体の全体的なサイズや四肢の筋肉量、さらには下肢の長さといった要素が、走る速度や持久力に大きな影響を与えることが確認されました。
つまり、走ることは単なる「足を前に出す」行為ではなく、私たちの体が持つ多くの「形状」によって、そのパフォーマンスが大きく変わってくるということです。
これは、コーチやトレーナーが選手を選ぶ際の重要な指標となるのでしょうね。
そして、私たち一般人も、あるいは自分の体型に合った「最適な距離」があるのかも知れません。