ランニングが脳の若さを保つ

 

長い間、人は「走ること」で、生きる力を高め、さらには精神的な明晰さを保ってきました。

しかし、どのようにして私たちの脳に良い影響を及ぼしているのか、という疑問は常に科学的な探究のテーマとなっていました。

最近の研究によれば、その秘密の一端が明らかになったようです。

特に、中年期を通じてのランニングが、成人後に生まれたニューロンを「つなぎとめる」効果があることが示唆されています。

 

元論文はこちら→

Vivar C, Peterson B, Pinto A, Janke E, van Praag H. Running throughout Middle-Age Keeps Old Adult-Born Neurons Wired. eNeuro. 2023;10(5):ENEURO.0084-23.2023. Published 2023 May 22. doi:10.1523/ENEURO.0084-23.2023

 

この研究では、マウスを用いて、成人後に生まれたニューロンが時間の経過と共にどのように変化するかを観察しました。

ランニングを続けるマウスでは、これらのニューロンが海馬の歯状回という記憶に関連する領域において、シナプスの可塑性が高まり、結果として記憶機能が向上していることが観察されました。

シナプス可塑性というのは、脳の神経細胞同士が情報を伝達する際に、シナプスの通りが良くなって、情報をたくさん伝えられるようになる現象です。

具体的には、ランニングは海馬内のインターニューロンから「古い」成人後に生まれたニューロンへの入力を増やし、これが加齢に伴う海馬の過剰興奮を抑える効果があることが示唆されています。

また、周辺皮質からの入力の喪失を防ぎ、海馬下部と嗅内皮質といった記憶に不可欠な領域からの入力を増加させています。

この発見は、私たちの脳におけるシナプスの可塑性が、単なる生理的な過程を超えて、行動や生活習慣によっても形作られることを示しています。

ランニングという身体活動が、脳のシナプスの接続を強化し、記憶機能を支える網の目を維持するのに一役買っているということです。

この知見が示すのは、日常生活における活動が私たちの脳に及ぼす影響の大きさです。

走ることは、文化や時代を超えて人類にとって重要な意味を持つ行為であり、今もなお、私たちの身体だけでなく、脳にとっても有益なのです。

そう考えると、運動靴を履いて一歩を踏み出すことの価値が、さらに高まるかもしれませんね。