「不思議な国の話」室生犀星著

 

以前にも触れましたが、青空文庫の(5分間で読める)短編小説の探索にハマっています。

今日の一品は、室生犀星の「不思議な国の話」です。

 

実際に登場するのは若い姉弟。彼らは草場に跼(せぐくま)りながら話をしています。

姉は物語を語り、弟はその話を聞く役割を果たしています。姉は話上手で、手で真似をして見せたり、美しい眉をしかめたり、または、わざとその大きい黒い瞳をいっぱい開いたりします。

弟は姉の話を聞き、不思議さに驚き、質問を投げかけるのでした。

そんな弟は毎日うしろの磧へ出て、ぼんやりと山を眺めています。その山は、薬草がたくさん生えているので医王山という名前がついています。

姉が語るのは、その昔、医王山へお山詣りに行く城下の人々の不思議なお話でした。

ある年の春、古い薬屋の家族がお山詣りに行った際、山の奥にある池のそばで娘のお蝶が突然姿を消してしまいました。彼女を探すために皆で捜索を行いましたが、どこにもお蝶の姿は見つかりません。

その後、お蝶の父親がある晩、彼女の部屋を覗いていると、驚くべき光景を目撃します。

お蝶が部屋から庭へ下り、赤蛙を口に入れるのです。

お蝶は家から姿を消し、家族は彼女を探しましたが、見つけることができませんでした。

お蝶の部屋からは、以前には感じられた青くさい匂いが消え、代わりに小さい蛇が見つかりました。その後も、家の周りには黒々とした蛇が見つかるようになりました。

姉の話を聞いていた弟は、姉に問いかけます。

「では娘さんはどうしたのだろう、どこへ行ったのだろう。」

「それはね。」姉は言葉を切ってから、「ほらあのお山へ行ったときから、きっと蛇につかれていたんですよ。それゆえ、ずっとさきに死んでいたのかも知れない――だから今でもあのお山には、そのお蝶さんのお墓が建っているそうだよ、その池のまわりにね。」

こんな文章で、この小説は閉じます。

「私は、きゅうに、医王山の方をながめました。今日はくっきりした紫色に晴れ上っていました。姉も同じいように、山の方をながめました。私は不思議な話が頭のなかに生きているため、その医王山が一つの生きもののようになって見えました。」

 

ドラマ仕立てに編集した「聞くドラ」が YouTubeにあがっていました。朗読ではありませんが、楽しく聴けます。