「故事名言」

 

さすがゲーテ。面白いことを言っています。

 

「いわゆる『名言』と呼ばれる言葉には、遠い昔から、色々と伝えられてきた。けれど、その『名言』を受け継いだ後世の人々は得てして、その言葉が語られた当時の意味を知らない。ただ自分勝手な意味を、その『名言』に込めているだけだ。」

 

中国の故事名言などがその良い例でしょう。あまりにも起源が古く、その言葉が生で発せられた時代の背景など誰も知らないはずです。

 

「人の取るや、欲するところいまだかつて粋(すい)にして来たらず。その去るや、悪(にく)むところいまだかつて粋にして往(ゆ)かざるなり。」

 

意味は「望みを実現しようとしても、望んだものそれだけがやってくるわけではない。嫌なものを除こうとしても、嫌なものそれだけが去ってゆくわけではない」というものです。

たとえば、健康のために運動をはじめたとします。望む結果としては健康的な体型や体調を得ることができると思っていたかもしれませんが、運動によって逆にストレスで疲れや痛みを感じたり、思ったほど効果が現れなかったりすることもあります。

価値はすべて相対的であるものです。

物事には全てその時に見えていない側面があり、どういう側面があるのかを十分に検討する必要があるのだと説いた言葉です。

この言葉を発した中国の儒家は、きっと生死を賭けた波乱の人生を歩んだのでしょう。

私たちがこの言葉に込める解釈は、せいぜい「できるだけ損失をしないようにプラスマイナスを勘定していきましょう」ぐらいかも知れません。

故事名言は、生きている私たちの解釈で、今も生き続けるものです。