モーム「月と六ペンス」

 

 

言わずと知れた古典名作です。

作家モームが、画家ゴーギャンの生き方に魅せられて、彼をモデルに書いた小説です。

ゴーギャンの生き方とは、芸術のために安定した生活をなげうち、最期まで絵筆を手放さなかった執念と情熱にあふれた生き方です。

ただし、この作品はゴーギャンの伝記ではなく、あくまでもストリックランドという架空の人物に託して書かれています。

こんなあらすじです。

 

「小説家の“わたし”は、ロンドンで成功した証券仲買人のチャールズ・ストリックランドと知り合います。彼は、妻と二人の子供と幸せに暮らしているように見えますが、突然家族を捨ててパリに行きます。彼は、絵を描くことに情熱を燃やしていたのです。

“わたし”は、パリでストリックランドを探し出しますが、彼は貧しく汚いアパートで、自分の才能にも自信がないまま絵を描き続けています。彼は、人間関係にも無関心で、友人や恋人を裏切ったり傷つけたりします。彼は、自分の芸術のためには何でも犠牲にする覚悟を持っているのです。

“わたし”は、ストリックランドと何度か再会しますが、彼はますます孤独になっていきます。最後に彼が現れるのは、タヒチの島。彼は、現地の女性と暮らしながら、自分の最高傑作を完成させようとしています。しかし、彼は重い病に侵されており、死期が近づいています。

“わたし”は、ストリックランドの死後にタヒチを訪れます。彼が残した絵は、壮大で美しく、世界中から注目されるようになります。しかし、“わたし”は、ストリックランドの人間性や生き方を理解することができません。彼は、“わたし”が知っているどんな人間とも違っていたのです。」

 

芸術の悪魔に魅せられ狂気にとりつかれた男の一生を描いた作品です。ずっと前に私の本棚に積読していて、最近になってやっと読み終えました。もちろん、例にもれず読み始めると止まらなかったです。

この作品は“わたし”とストリックランドの二人を悉く対照的に描いていきながら「自分の周りには実際にいないけれど、天啓を受けた人間ってこんなかも知れない」と、妙に納得してしまう説得力があります。

物ごとは二元的に語れるほど単純ではないですが、この“わたし”とストリックランドの二種類の人間の対比が、この小説のバランスをとっているのでしょう。

どちらが幸せか、不幸かの話ではありません。人間の凄まじさを語るものです。

ストリックランドの描いた絵が、ゴーギャンの絵を連想させるので、全体に色彩豊かで視覚的です。