芥川龍之介「桃太郎」

 

 

昔話に材をなした二次制作ものの作品は、それがアニメであれ小説であれ、脇役(あるいは敵役)の視点を中心にして見える世界を変えたり、解釈の可能性を広げたりすることに面白さがありますし、趣があります。

その場合、オリジナルをなぜそのように改編したのかという作者の意図がより鮮明になります。

つい先日まで、芥川龍之介も「桃太郎」を書いていたということを忘れていました。

こんなあらすじです。

 

「桃太郎は、伊弉諾(いざなぎ)の国産みの神話に登場する桃の木から生まれた。桃太郎は、おじいさんとおばあさんに育てられ、やがてイヌ、サル、キジを家来にして鬼ヶ島へ鬼退治に出かけた。鬼ヶ島は天然の楽園で、鬼たちは平和に暮らしていた。桃太郎は、鬼たちを人質に取り、宝物を奪った。鬼たちは、桃太郎に従うことを誓った。桃太郎は、鬼の子供を連れて郷里に帰った。桃太郎は、天才と呼ばれるようになったが、実は侵略者であり、鬼たちを支配した。」

 

つまり、桃太郎は侵略者であり、鬼たちは被支配者であるという、昔話とは違う解釈の物語です。

単に主客を逆転させた「ダーク桃太郎」というのではなく、芥川龍之介はこの物語を通して、日本の侵略戦争や植民地支配を批判したものと考えられています。

芥川龍之介は、この作品を書いた後に自殺しました。死の直前に書いた最後の作品です。

ただし、この作品と死因との明確な関連はないとされています。もちろん当時の芥川の心情を反映しているのは間違いないでしょう。

芥川龍之介は、自分の天才性に苦しんでいたとも言われていました。桃太郎の天才性は、自分の利益のために他者を支配することにしか使われませんでした。

この物語は、芥川龍之介自身の自己嫌悪や絶望感を反映しているとも言えそうです。