小説「此の世の果ての殺人」

 

 

クローズドサークルを成立させるためにゾンビを駆り出した例もありましたが、今回は終末を迎える世界を舞台にした、いわゆる特殊設定もののミステリー小説です。

本来なら(出尽くした感はあっても)そのテーマ単体でストーリーが展開してもおかしくないはずですが、そこにミステリーをぶっ込んできたところに、作者のセンスを感じます。

作者は、江戸川乱歩賞史上最年少受賞者という話題の荒木あかねさん。選考委員の満場一致というのも頷ける力作です。

時期は年の暮れ。翌年3月に九州に小惑星「テロス」が落下されることが発表されて、世界中がパニックになり、日本中から多くの人々が逃げ出して人影がほぼなくなった福岡の街が舞台です。その状況下でもはや警察は機能を失っています。

この時期に、なぜか運転免許取得をめざすハルと自動車学校教官のイサガワの2人が主役。バディ小説としても魅力に溢れています。

ある日、その2人が教習車のトランクから女性の刺殺体を発見しました。近隣で似た手口の殺人が起きていることを知った2人は、警察に代わり、この連続殺人事件の犯人を追っていくというストーリーです。

黙っていても数ヶ月先には人類がほぼ死に絶えるのがわかっているのに、なぜこの時期に人を殺すのかという謎が大前提として立ちはだかり、ミッシングリンクをうまく絡ませながら、そのためになぜ2人が犯人を自ら探し出して捕まえなければならないかという説明にも役立っています。

ミステリーとしての骨組みがしっかりしているので、極限状態下の登場人物たちの行動形式が多少歪んでいたとしても、そこはむしろ楽しむべきポイントとなります。

実際、面白く読ませていただきました。(この小説もいつか映画化されるのかな?)