「恩讐の彼方に」

 

昔読んで忘れられないという小説は、やはり今読んでも面白いですし、何度も読み返してしまいます。

私にとって、菊池寛「恩讐の彼方に」は、そんな作品です。

(青空文庫で全文を読むことができます。)

あらすじを紹介します。

 

旗本に仕える市九郎が、主人に斬りつけられるところから物語は始まります。主人の愛妾と密通したのが原因でしたので、最初はおとなしく罰を受けるつもりの市九郎でしたが、とっさに反撃に出てしまうと、逆に主人を殺してしまいます。逃げ出した市九郎は、やがて出家して全国を行脚します。豊前の鎖渡しという山越えの難所で人が毎年死ぬことを知った市九郎は、懺悔として断崖にトンネルを掘り始めるのでした。19年の歳月が流れ、完成を目前にしたとき、主人の息子実之助が「父の仇」と仇討ちにやって来ます。素直に斬られることを望む市九郎でしたが、いつしか市九郎に協力するようになった石工たちが「完成まで待ってくれ」と嘆願し、押しとどめます。実之助は、本懐を遂げる日を1日でも早めるために、石工たちに混じって掘削をはじめました。市九郎が掘り始めて21年目にようやくトンネルは完成します。約束通り市九郎は実之助に自分を討たせようとしますが、市九郎の行いに心打たれた実之助は仇討ちの心を捨てて、市九郎にすがりついて号泣するのでした。

 

「生涯をかけた壮大なミッション」と口にするのは簡単ですが、ノミと槌だけで少しずつ岩を掘り進めていく市九郎の姿は、もはや懺悔の心を通り越したものです。

その一途さ、「これをやり遂げたのなら何もいらない」とする潔さは、尊いものとして私の心にいつまでも残っています。

青空文庫で読むのも良いですが、YouTubeで朗読のチャンネルを見つけました。

おすすめです。

 

https://youtu.be/oubgNGhU2Ks