未知未踏の世界

 

髪をカットしたくて、人生で初めて美容室に行ってみました。

今まではもっぱら近所の床屋さんにお願いしていたのですが、今回は(春にもなるし)気分転換のつもりでした。

気分転換…と言っても、私のようなオジサンにとって美容室は未知未踏の秘境です。

軽い気持ちで足を踏み入れるほど、厚かましさを備えている訳ではないので、我ながらいざその時になると挙動不審になっていないかヒヤヒヤものでした。

お店に入ると、おしゃれな飾りつけが目にとまりました。壁にドライフラワーがいくつもレイアウトされています。やはり場違いだったか…と後悔しました。しかし、ここで引き返すわけにはいきません。

受付に「予約した者ですけど…」と告げると、モニターを確認して「こちらは初めてですね。あちらで、このアンケート用紙をご記入ください」と椅子を勧められました。

いくつかの質問に、ほとんどを「スタイリストに相談する」にチェックを入れました。

そして、悲しいかな、オヤジの習性で、つい「かっこよくしてください」と言ってしまったのですが、優しく聞かなかったふりをしてくれました。

「何か気になるところはないですか?」

ランニングの時にキャップをかぶると、耳周りの髪が跳ねておさまりがつかないということを言うと、2、3の質問を追加して「こうしましょう」と提案してくれました。

それから、別のスタッフが来て私の髪に取りかかってくれました。

「美容室は初めてなのでドキドキしています」と白状すると「男性の方も多いですよ」とフォローしてくれます。

新しい経験は貴重です。分野は違いますが、「孤独のグルメ」の井之頭五郎の気持ちがわかったような気になってきました。

そんなことを言う年齢でもないのですが「長生きはしてみるもんだ」というセリフがなぜか浮かんできました。

人見知りの激しい私が、カットしてもらいながらお喋りを楽しんでいたのですから、やはり相手はさすがのプロでした。

未知未踏の世界に足を踏み入れる冒険も、たまにはいいかも知れないとしみじみ思ったオジさんなのでした。