「自分自身であること」

 

詩人、中原中也の名言を検索してみると、きっとこの言葉に出会うでしょう。

「自分自身でおありなさい」

この言葉は中原中也は元恋人の小林佐規子に宛てた手紙の中の一文です。

表現について悩む元恋人に、詩人としての矜持を温かくアドバイスしている手紙です。

 

 

(略)

あんたのやうな純粋な人が、自分自身であり得たら、一番楽に何かが表現出来るのです。何故といつて表現とは普通に考へるやうに描写することでは断じてない。表現とは自分自身であることの褒賞であつて、人が好いことに引きずられて外物本意に生きてゐると、人は何か現はしたいなと思ふや所謂描写を予想することになるのです。その結果意味のない風景配列をするのです。

 自分自身でおありなさい。弱気のために喋舌(しゃべ)つたり動いたりすることを断じておやめなさい。断じてやめようと願ひなさい。

 そしてそれをほんの一時間でもつづけて御覧なさい。すればそのうちきつと何か自分のアプリオリといふか何かが働きだして、歌ふことが出来ます。

 実に、芸術とは、人が、自己の弱みと戦ふことです。その戦ふ力が基準となつて、諸物に名辞なりイメッヂなりを与へる力です。

 

 

アプリオリというのは、「先天的・生得的」という意味です。つまり、その人が持っている根元的なものと言ってもよいでしょう。

自分を見失わずに、自分自身でいることが大切だと説いているのです。

「自分自身でおありなさい」

全ての人に通ずる、優しい言葉がけになると思います。