小説「五重塔」

 

先ほど幸田露伴「五重塔」の朗読を聴き終えました。(同時に目で文字を追いかけても読みました。)

例によって「五重塔」は青空文庫で全編を無料で読むことができます。リンクを貼っておきます。

→ こちら「五重塔」

日本文学の名作中の名作ですから、もちろん読んだ方も多いでしょうが、実はそれ以上に現代ではなじみのない古風な日本語を敬遠してしまって、未読の方も多いのではないでしょうか。

だから「あらすじは知っているが読んではいない」方が多くいるのではないかと推測しています。

そういう私もそうでした。

だいたい物語の最初の一文がこうです。

 

「木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとどめて翠の匂いひとしお床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリリと上り、洗い髪をぐるぐると酷く丸めて引裂紙をあしらいに一本簪でぐいと留めを刺した色気なしの様はつくれど、憎いほど烏黒にて艶ある髪の毛の一ト綜二綜後れ乱れて、浅黒いながら渋気の抜けたる顔にかかれる趣きは、年増嫌いでも褒めずにはおかれまじき風体、わがものならば着せてやりたい好みのあるにと好色漢が随分頼まれもせぬ詮議を蔭ではすべきに、さりとは外見を捨てて堅義を自慢にした身の装り方、柄の選択こそ野暮ならね高が二子の綿入れに繻子襟かけたを着てどこに紅くさいところもなく、引っ掛けたねんねこばかりは往時何なりしやら疎い縞の糸織なれど、これとて幾たびか水を潜って来た奴なるべし。」

 

ご覧の通り句読点が多くて、黙読しているとどこまで読んでいたのかわからなくなって迷子になってしまいます。これが日本文学の頂点なのかと、目がくらんだものでした。

ところが、先日、なぜかYouTubeのオススメに出てきた「五重塔」の朗読を聞いてみて、驚きました。

今までの印象と違うのです。

朗読者のレベルが高いおかげなのでしょうが、難解で硬い文章と思っていたのが、耳に気持ちいいリズム感があって、一緒に文字を目で追いながら、とにかく面白いのです。

まるで、キレのいい落語を聞いているかのようなノリがあります。

この小説はこうやって読むのかと日本語の再発見の経験をしました。

 

ふと思い当たって調べてみたら斎藤孝さんも「音読破」シリーズにこの「五重塔」を取り上げていますね。

こんな推薦文がありました。

 

「こういう日本語は黙読で追っているだけでは本当の良さは味わえません。音読しないとだめなのです。声に出して読んでいると、難しい言葉の意味もどんどん入ってきます。」

 

なるほど納得です。その通りだったとおおいに共感しました。