「五観の偈」

 

 

この映画の冒頭の部分に、道元禅師が中国の修行時代に経験した有名なエピソードが再現されていました。

道元の書物「典座教訓」で示された、天童山景徳寺で出会った老典座とのお話です。

典座とは禅宗寺院で修行僧の食事をつかさどる役のことです。

真夏の炎天下で、老典座が背中を曲げ杖をついて汗まみれになって海藻を干していました。

道元は「年老いたあなたがやる必要があるのですか?ほかの若い僧にやらせてはいかがですか」とたずねました。

老典座は「他は是にあらず(他人の功徳は私の功徳になりません)」と答えます。

道元は、それはもっともだと認めますが、「しかし、なぜこの炎天下でなさるのです?なにもわざわざ暑い盛りにしなくても」と訊きました。

「海藻を干すのに今よりもよい時間があるでしょうか」という老典座の答えに、道元は気づきます。

修行とは他人まかせにするものではなく、私が積んだ因が果となるもの。また、修行であれば、どんな時でも一切手を抜かずに全力で取り組むべきであること。

その曹洞宗には「五観の偈」というものがあるそうです。

食事の前に感謝の気持ちをこめてとなえる偈です。

 

一つには功の多少を計り、彼の来処を量る(この食事が多くの人々の苦労によって、ここに運ばれたことに感謝します)

二つには己が徳行の、全欠を忖(はか)って供(く)に応ず(自分がこの食事をいただくだけの徳のある行いをしてきたか、自身を見つめて反省します)

三つには心を防ぎ過(とが)を離るることは、貪等を宗とす(どのうような食事でも好き嫌いせず、こだわり、とらわれ、かたよりの心を持たずにいただきます)

四つには正に良薬を事とするは、形枯を療ぜんが為なり(この食事をまさに良薬としていただきます)

五つには成道の為の故に、今此の食を受く(よりよく生きるために、この食事をいただきます)