キケロ「老年について」

 

キケロは古代ローマの政治家であり哲学者です。

彼は、ギリシア哲学ストア派の教義に軸を置きながら、彼自身の思想をその著作に表してきました。

彼の「老年について」(岩波文庫)は、より良い老年期を生きるためのキケロ流の考え方を伝えた一冊です。

まず、人が老いを惨めに思う4つの理由を挙げます。そしてその後、この4つの一つひとつを論駁してみせるという構成になっています。

その理由とは、以下の4つです。

  1. 活動的な生活を送れなくなる
  2. 肉体が弱くなる
  3. ほとんどすべての快楽が奪い去られる
  4. 死から遠く離れていない

 

ここでは、第四の「死の接近」についての反論の中の言葉を紹介します。

「自然に従って起こることは全て善きことの中に数えられる。とすると、老人が死ぬことほど自然なことがあろうか。同じことが青年の場合には、自然が逆らい抵抗するにもかかわらず起こるのである。だからわしには、青年が死ぬのはさかんな炎が多量の水で静められるようなもの、一方老人が死ぬのは、燃え尽きた火が何の力を加えずともひとりでに消えていくようなもの、と思えるのだ。果物でも、未熟だと力ずくで木からもぎ離されるが、よく熟れていれば自ら落ちるように、命もまた、青年からは力ずくで奪われ、老人からは成熟の結果として取り去られるのだ。この成熟ということこそわしにはこよなく喜ばしいので、死に近づけば近づくほど、いわば陸地を認めて、長い航海の果てについに港に入ろうとするかのように思われるのだ。」

 

そして、最後にこう語っています。

「人生における老年は芝居における終幕のようなもの。そこでへとへとになることは避けなければならない、とりわけ十分に味わい尽くした後ではな。」

キケロが言っているように「青年期の基礎の上に打ち建てられた老年」であることを肝に銘じておきたいと思いました。