「病い」と「疾患」

 

「病気」を語る時、二つの側面があります。

一般の方も、医療者が「病い」と「疾患」の二つの呼び方を(敢えて)しているのを耳にしたことがあるかも知れません。

医療者が、この二つの呼び方をするのは、自戒の念をこめて遣っている場合が多いです。

「病い」と「疾患」の区別は、私たちが医学で学べなかったことを、医療の現場でいやというほど突き付けられた苦い経験からきているものです。

「病い」と「疾患」

簡単に言ってしまえば、「個人にとっての病気」と「医学的な病気」の違いです。

「病い」とは、患者さんの体験そのものです。その体験がその方自身の言葉で紡がれて「物語」となっていきます。

定義上では「ある人にとって固有の症状や苦痛の体験で、それについて病む人、家族、つながりのある人々が、どう感じ、どう過ごし、どう対処していくかという経験」とされています。

一方、「疾患」は「体の秩序がどのように障害されているかという理論に基づいて病を再構成したもの」です。

つまり、正常値からどれだけ異常であるかを見つけ、異常の大小によって原因は何か、原因の除去は可能か、除去できないのならば代替策は何かと、解決の道筋を模索していくものです。

「疾患」は、異常の理論に基づいたものになります。

例えば、医者が「この治療法を選択すれば、副作用の出現頻度は1割ですから、大丈夫ですよ」と説明するのは、それに近い考え方です。

そういう説明で納得しているように見えても、患者さんはあまりピンときていません。

なぜなら、全体で1割でも、その人にとっては副作用が出るか出ないかの50:50です。

「その副作用は私に出るか、出ないか」が問題です。

合理的にいきたいけれど、そうはいかないのが人間です。

「病い」と「疾患」については、医療従事者として何年経験を積んでも、原点に戻る必要性を感じます。