私たち医療従事者はもちろん医療の世界の住人ですから、そこにあるものが常識と思いがちですが、このコロナ禍で一般の方々の一部は決してそうではないのだと気づかされることがあります。
例えば、これだけコロナ感染者が多いと、職場で濃厚接触者としてPCR検査の行政検査を指導されるケースも多く出ています。
もちろん無症状の方が多いはずで、早期発見できれば感染を広めないうちに隔離ができますし、陰性ならば濃厚接触者として一定期間の自宅療養が課せられます。つまり、真の非感染者であることを確認するため潜伏期間を自粛して生活してもらうわけです。
いずれにせよ、目的は感染を広めないこと、です。
先日、職場の同僚がコロナ感染者となり、保健所から行政検査が必要と判断された方が(仮にAさんとします)PCR検査をしたところ「陽性」となりました。
無症状のAさんは、よっぽど納得がいかなかったのでしょう。
症状や感染状況を確認する医療者からの電話に、喰ってかかりました。
「症状もないのに納得がいかない。仕事の都合もある。自分が抜けるわけにはいかない。どうにかならないか。」
Aさんは「病気をしたことがない人」という表現はちょっと違うでしょうね。「今まで(幸運にも)病気の本質を考えずに過ごしてきた人」というのが合っている気がします。
それは病気に関わることを、目の前の医療者との交渉で何とかしようとするのが特徴です。
「明日、もう一回PCR検査をしようと思う。」
Aさんはきっぱりと言い放ちました。
それはもう検査の目的から大きくはずれていますし、例えそれが陰性であっても何の意味もありません。Aさんが自己満足しても、周りの同僚や家族の安全は守られません。
世の中には理不尽なことが多く存在します。病気はその最たるものの代表格でしょう。そして、病気の中でも感染症は、今まで元気だった人がある日突然に倒れるわけですから、理不尽の極みです。
人間の理屈をどんなに並べても、どんなに言い訳をしても、自分の都合通りにいかないのが感染症です。
そして、その病気は、誰かとの交渉で何とかできるものでもありません。
自分の周りの相手を慮(おもんぱか)る、冷静さと優しさをお持ちください。