ゲーテ「ファウスト」の第二部の第五幕「深夜」の章から。
塔守リュンコイスが美しい詩を歌いあげます。
この詩は、夜中に塔守の見張り番をしていたリュンコイスが自分の目に映る世界の美しさを自らの言葉によって高らかに歌い上げていくものです。
リュンコイスとは「ヤマネコの鋭い目を持つ者」という意で、その目はゲーテ自身の目であり、ゲーテの心情を強く反映したものとされています。
見るために生まれ
見るために生まれ
ながめるのが天職だ
わたしは望楼に立っている
世界はすばらしい
遠くを見わたし
近くをながめる
月を星を
森を小鹿を
そうして わたしは万象に
神のよそおいを見る
すべてのものが面白く
われとわが身も気に入った
幸せだ わたしの目が
見たものは
なんであろうと
すべては まったく美しかった
ゲーテについて、ハイネは「自然は、自分のすがたを見たいと思ってゲーテを創造した」と言い、そして「神さまよりもゲーテの方が、ときには万物を上手に創れたろう」とまで言っているそうです。
この詩を読むと、ゲーテのようにすべてのものを面白く、美しく見たいものだと思います。