坂口安吾の傑作のひとつとされている作品です。
青空文庫で新字新仮名で読めますから、リンクを貼っておきますね。
内容は、寓話的で得体が知れず(部分的に解釈が難しい)残酷な描写も多々ありますが、どんどん読ませてしまう文体は、さすがです。
「ヒメの笑顔」が随所に出てきますが、語り手である耳男(ミミオと読みます)の仏師としての感性は、その笑顔の裏に潜む正体を早い段階で見抜くことはできませんでした。それどころか、最後まで彼の心はヒメの笑顔に捕らわれたままです。
笑顔と残虐性 ―。 現代風に言うならば、夜長姫は「サイコパス」です。
「夜長ヒメ」は、現在のアニメやドラマ、映画などで「サイコパス」を描写する際の原型・プロトタイプのような気がします。
その人間離れした残虐さが、耳男の目や心を通して私たち読者に刷り込まれていきます。
ヒメの最期の言葉が、容易に理解できず、謎を残したまま耳男のこれからの人生に覆いかぶさります。
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するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。
「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」
ヒメの目が笑って、とじた。
オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
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読み手によって、いかようにも解釈されるラストなのでしょうね。大人の童話とされる所以です。