「桜の森の満開の下」

 

昨日、「夜長姫と耳男」を話題にしましたから、同じ坂口安吾著「桜の森の満開の下」を取り上げるタイミングだと思いました。

 

これも青空文庫で、新字新仮名で読むことができます。リンクを貼っておきますね。

 

「桜の森の満開の下」

 

主人公は、ある峠で暴れまわる山賊の男です。この男はこの山の全て、目に入る物は全て自分の物だと思っていました。怖いもの知らずの乱暴者でしたが、桜の森だけは怖ろしいと感じ、桜が満開の時に下を通れば、気が狂ってしまうのだと信じていました。

 

男は峠を通りがかった旅人を身ぐるみはがしたうえに殺し、連れの美しい女を自分の妻にします。

 

女は亭主を殺されたばかりでも、山賊の男を恐れず、「おぶって山道を登れ」などとあれこれと指図します。そればかりか、男の家に到着するや否や、男の7人の女房を、足の不自由な女だけは女中として残して次々に殺させました。

 

冒頭部分だけでも、「夜長姫」を彷彿とさせます。

 

「夜長姫」と同様に、美しく妖しく残酷な女が男の相手となる構図です。

 

そして、女が残酷であればあるほど、無垢な動機(その方が怖いのですが)が強調されていくのも似ています。

 

怖ろしい物語に違いないのですが、冷淡さや残酷さを越えて、男の孤独感に共感してしまうのです。

 

物語の終盤に、こんな箇所があります。

 

「桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは『孤独』というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。」

 

「救いがないのが救い」や「堕ちるを堕ちきる」などと言った言葉が、よく当てはまるものだと思いました。

 

 

 

1975年に映画化されたようです。YouTubeに予告編を見つけました。