青空文庫に掲載されている作品の中で、時々その「ショートショート」ぶりで話題にあがる作品です。
「ドグラ・マグラ」で知られる夢野久作の作品で、やはり独特の世界観は秀逸といえるでしょう。
「ドグラ・マグラ」もそうでしたが、夢野久作という人は医者と患者の関係性について、何か特別な想いがあったのかも知れません。
いつもですと、あらすじを紹介して参照元の青空文庫のリンクを貼るのですが、あまりに短いので今回は全文を紹介することにします。
(ちなみに、リンクはここです。→ 「医者と病人」 )
医者と病人
夢野久作
死にかかった病人の枕元でお医者が首をひねって、
「もう一時間も六カ(むつか)しいです」
と言いました。
「とてもこれを助ける薬はありません」
これを聴いた病人は言いました。
「いっその事、飲んでから二、三日目に死ぬ毒薬を下さい」
(「六カしい」のふりがなは私がつけました。)
さて、この作品をどう受け取りましょうか?
1時間持つか持たないかと言っているのに、2,3日で効く毒薬なら、この窮地がリセットされるかも知れない。
「DEATH NOTE 映画版」で、Lこと竜崎がつかったトリックに類似していますね。
とんちのネタということに徹底すれば、ドリフのコントでも通用するかも知れません。
死の間際にみせた病人の精一杯のユーモアと捉えることができます。
ユーモアでなければ、どんな状況でしょう。
改めて医者と病人の、この会話が導き出されるまでの関係性を考えてみました。
余命1時間を宣告された後に、「いっその事、『助ける薬』ではなく『死ぬ毒薬』をください」と言う病人。
病人は死ぬことを拒絶するのでもなければ恨み節を並べるのでもない。ただ「飲んでから二、三日目に死ぬ毒薬」にしてくれと言っています。
この病人にとって、死はすでに受容されたもののようです。
そして、生死の鍵を握り、死へと誘うのは医者だと認識されているようです。
それが「一時間」でも「二、三日目」でも、医者はそれさえも操作できるものと捉えられているのでしょうか。
ここまでたどり着くまでの、2人の関係はどういう物語があったのでしょう?
もちろん、答えなどないのですが、いろいろと想像力が刺激されてしまいます。
たった6行の作品で、読者を惑わせてしまう、さすが夢野久作ですね。