アポロンは恋多き男性美の化身として知られています。
美貌にあふれる容姿だけでなく、芸術、医術、狩猟に秀でた太陽神として皆の寵愛を一身に受けていました。
ただし、一人だけ例外の恋がありました。ダプネへの恋です。
ある日、キューピッドが弓矢で遊んでいました。
子どもの力ですから、うまく弓の絃を引くことができません。
そこを通りかかったアポロンが、キューピッドをからかいます。
「子どもがそんな強力な武器をどうしようと言うのだ?その弓は私にこそふさわしい。君はせいぜい恋人たちの恋の行方でも照らすがいいさ。」
キューピッドは答えます。
「アポロンのおじさま。あなたの弓はすべてのものを射抜くことでしょう。けれども、私の弓はあなたを射るのですよ。」
キューピッドが持っている矢のうち、金の矢は恋をかきたてる矢でした。
銀の矢は、それとは逆に恋を拒む矢でした。
キューピッドは金の矢をアポロンに射ました。そして銀の矢を川の神ぺネイオスの娘ダプネに射ます。
アポロンはダプネに恋をし、虜になります。
しかし、アポロンが好きになればなるほど、そんなふうに思われることさえダプネは嫌い、拒み続けました。
アポロンはどこまでも追いかけ、ダプネもどこまでも逃げ続けました。
けれども、ついに逃げ続けることに力尽きたダプネは父に助けを求めます。
「わたしのこの姿をなくして、別のものに変えてくださいますように!」
祈りが終わるが早いか、ダプネの手足は痺れ、柔らかな腹部は固い樹皮に覆われていきました。
髪は葉に、腕は枝に変わり、足はどっしりとした不動の木の根となっていきました。
アポロンはその木を抱きしめましたが、まだダプネの心臓が鼓動する音はそれさえも避けようとしているかのようでした。
アポロンはその木(月桂樹)に語りかけました。
「私の妻にはなれなかったが、せめて私の木になっておくれ。いとしい月桂樹よ。私の髪も、竪琴も、つねにお前で飾られるだろう。」
そうして、人間は勝利の栄冠として、月桂樹の葉で編んだ冠を飾ることにしたのでした。
これが月桂冠です。