ふと立ち寄ったコンビニで見かけたので、衝動買いしてしまいました。
「文藝春秋」の9月号。
芥川賞受賞作の「春の庭」全文掲載の号です。
作家の柴崎友香さんは大阪生まれの方。
受賞のことばに、こうあります。
「見えるものを書きたい、と思ってきました。徹底して見ることで、見えるとは意識されていないものを見ることが、
届かないはずのものに触れることができるのではないかと、何度も試みてきました。」
「これまでわたしの小説を読んでくださった方、関わってくださった方に、感謝します。書き続けることだけが、自分にできることなのだと思います。」
小説を世に送り出すとは、そういうことなのだなと改めて思いました。
「春の庭」は、オーバーナイトの当直の日に読みました。
作者の言うように、本来見えないものが映し出されるような表現が印象的でした。
「毎日、低いところを雲がぺったりと覆っていた。太郎は、空の青いところが見えない曇りや雨の日には、雲の上にいる自分を想像することはない。その代わり、雲の上に空があることも想像できなくなった。雲の向こうには、青い空はなく、かといって暗い宇宙でもなく、ただなにもない透明な空間が広がっている。」
客観的な描写によって粘り強く静かに物語は進んでいきます。
物語りは多焦点カメラの視点で展開していきますが、それが意図ある展開でないところが実際の生活をなぞらえているようです。
読了後、胸に残る作品です。
柴崎友香さんの別の作品も読みたくなりました。