食後の高血糖に対応した「食べる順ダイエット」などの発想は、目から鱗だった記憶があります。
その気になれば誰でも取り組めますし、何をどう食べるかという視点は「食事を摂ること」の奥深さを今さらに感じたものでした。
そして、昔から「よく噛んで食べなさい」と言われてきたり、実際に、日常でも「早食いや丸呑みは良くないですよ」と注意もしてきました。
それは、よく噛んで食べることが消化を助けるだけでなく、食後の血糖に対する科学的根拠があってのことでしたが、今回紹介する論文はそれをさらに発展させたものです。
咀嚼という行為が、いかに私たちの体内の化学反応に影響を与えるかを明らかにしたものでした。
研究者たちは、19名の健康な若い男性に、キャベツを用いた二つのテストを実施しました。
一つはキャベツを細かく切って噛んで食べる「咀嚼」試験、もう一つはピューレにして咀嚼せずに食べる「非咀嚼」試験です。
食事の後、血糖値、インスリン、そしてインクレチンホルモンであるGLP-1とGIPのレベルを測定しました。
結果のグラフを示しますね。


最も目を引くデータは、咀嚼によるインスリンとGIPの分泌増加でした。
グラフから明らかなように、咀嚼試験ではこれらのホルモンのiAUC(増分面積)が非咀嚼試験よりも有意に高かったのです。
これは、食べ物をしっかり噛むことが、血糖を制御するホルモンの分泌を促すことを意味します。
しかしながら、これらの変化が血糖値自体に直接的な影響を及ぼすわけではないようです。
血糖値のiAUCは両試験間で大きな違いは認められませんでした。
これは食事後の血糖レベルの変動には咀嚼が直接関わっていない可能性を示唆しています。
GLP-1の結果も注目に値します。
咀嚼試験でのGLP-1のレベルは高い傾向にありましたが、統計的に有意な差は見られませんでした。
このホルモンは、インスリンの分泌を刺激し食欲を抑制することで知られていますから、咀嚼の効果があるかもしれませんが、さらなる調査が必要です。
この研究が示すのは、咀嚼が私たちの消化と代謝に微妙ながら重要な影響を及ぼす可能性があるということです。
食物を丁寧に噛む行為は、単に消化を助けるだけでなく、血糖を管理するホルモンの動きにも良い影響をもたらすことが示されました。
そして、食事前に野菜サラダをよく噛んで食べると、インスリン分泌が増加するという今までの考えを裏づけてもいます。
今回の実験の対象者は健康な若い成人でしたが、若くても「よく噛んで食べる」必要があるということですね。
元論文:
Kamemoto K, Tataka Y, Hiratsu A, et al. Effect of vegetable consumption with chewing on postprandial glucose metabolism in healthy young men: a randomised controlled study. Sci Rep. 2024;14(1):7557. Published 2024 Mar 30. doi:10.1038/s41598-024-58103-w
