アルツハイマー病がなぜ起こるのかという疑問に対し、現在のところ、アミロイドβ仮説、アセチルコリン仮説、オリゴマー仮説などがあります。
アミロイドβ仮説は、アルツハイマー病の病理をアミロイドβの蓄積から始まると考え、それが神経細胞の損傷や死につながるというものです。
一方、アセチルコリン仮説は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬開発の元となった説であり、アセチルコリンの減少が認知症の原因であるというものです。
また、オリゴマー仮説は、アミロイドβの蓄積によって生じるオリゴマーが神経細胞の機能障害を誘発し、細胞死に至るという説です。
これらの説は、それぞれの視点からアルツハイマー病の病因を考えるものであり、それぞれが研究や治療の方針に影響を与えています。
その最新の試みが「ガンテネルマブ」というモノクローナル抗体です。
ガンテネルマブは、アルツハイマー病の早期段階における認知機能の衰退を遅らせることを目指し開発されました。
この抗体は、アミロイドβを標的とします。
この抗体が有効であるかを探る臨床試験、すなわちGRADUATE IおよびII試験でどのような結果が得られるのかは、医学界における大きな関心事でした。
元論文はこちら→
Bateman RJ, Smith J, Donohue MC, et al. Two Phase 3 Trials of Gantenerumab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;389(20):1862-1876. doi:10.1056/NEJMoa2304430
試験は、軽度の認知障害または軽度の認知症を抱える50歳から90歳の間の人々を対象に、2週間ごとにガンテネルマブまたはプラセボを投与する形で進められました。
この試験の成果は複雑です。
ガンテネルマブはアミロイドプラークの量を減少させる効果を示しました。
しかし、残念ながら、臨床的な衰退の遅延にはつながりませんでした。
つまり、この薬はアルツハイマー病の進行を遅らせるという主要な目標には達しなかったのです。
これは、アルツハイマー病の治療においては、まだ解決すべき課題が多いことを示しています。
安全性に関しては、ガンテネルマブは一般的に良好でしたが、アミロイド関連画像異常(ARIA)や注射部位の反応などの副作用が観察されました。
結局のところ、ガンテネルマブは、アルツハイマー病という巨大な謎に対する一つの試みに過ぎませんでした。
この病気の謎は未だ完全には解き明かされておらず、研究者たちはさらなる知見を求めてその探求を続けています。
アルツハイマー病に対する治療法の発見には、まだ道のりがありますが、ガンテネルマブの試験は、その過程で得られた重要な知見となったようです。
