宮沢賢治の童話に「毒もみのすきな署長さん」という作品があります。
賢治の童話らしくない、黒い部分をあぶりだしたようなお話です。
青空文庫で読むことができますので、リンクを貼っておきますね。
あらすじを紹介します。
プハラという国の物語です
この国では、「毒もみをして魚をとること」が法律で禁じられています。「毒もみ」とは、山椒の皮など毒性の粉末を使って魚を捕獲することです。プラハの警察は毒もみをする者を捕まえるのが最も大事な仕事だとされています。
ある夏、プラハに新しい警察署長さんがやってきます。不思議なことに彼が赴任して以来、毒もみで川の魚が次々と死ぬ怪事件が発生します。疑いをかけられたのは、なんとその署長さんでした。
事態を重く見た町長さんが、事の真偽を署長さんに尋ねます。すると署長さんは悪びれた様子もなく、あっさり犯行を認めました。町長さんも驚きました。署長さんは裁判となり死刑になることが決まります。
(このあとは原文のまま)
いよいよ巨(おお)きな曲った刀で、首を落とされるとき、署長さんは笑って云ひました。
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」
みんなはすっかり感服しました。
なんとも衝撃的な幕切れを迎えるお話です。
最後の「みんなはすっかり感服しました。」という一文が、「さあ、あなたならどう解釈する?」と賢治に試されているかのようです。
感服したというのは、「みんな」は署長さんの欲望を認めたということでしょう。罪は償うべきで共感はできませんが、「地獄に落ちても続けたい」と言えるものを持つ署長さんのことを、もしかしたらある意味尊敬したのかも知れません。
私には、署長さんの「毒もみ」のような存在は、ありません(たぶん)。
自分の欲を死ぬまで追求する、そういう欲を肯定する…という視点は、今までありませんでした。
そういう宮沢賢治はどうだったのでしょう。欲を追求する生き方とは、正反対の印象があります。だからこそ、生まれた童話なのかも知れません。
短い童話ですので、読んだことのない方におすすめです。
