有島武郎の「小さき者へ」を何十年ぶりかに読みました。
「小さき者へ」は、有島武郎が母を失ったわが子に贈った悲痛な覚悟を綴った宣言文です。
2段落目の冒頭に、わが子にこんな言葉を突きつけています。
「お前たちは去年、一人の、たつた一人のママを永久に失つてしまつた。お前たちは生まれると間もなく、生命に一番大事な養分を奪はれてしまつたのだ。お前たちの人生はそこで既に暗い」。
そこに慰めや励ましはありません。根本的に不幸なのだと決めつけます。「お前たちは不幸だ。恢復の途なく不幸だ。不幸なものたちよ」
私が「小さき者へ」を読むのは、わが子=「不幸なものたち」に対する有島武郎の痛々しいほどの深い愛情を感じるからです。
「私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。私の一生が如何に失敗であろうとも、又私が如何なる誘惑に打負けようとも、お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。きっとする。」
母親が詠んだ歌が胸を打ちます。
「子を思う親の心は日の光世より世を照る大きさに似て」
