肺炎の「不適切な診断」

 

この論文のタイトルにある「Inappropriate Diagnosis of Pneumonia」をなんと訳そうかとちょっとためらいました。

直訳すると「肺炎の不適切な診断」ですが、なんだかわかりにくいですね。

ズバリ言ってしまえば、「診断が違っていた」「誤った診断」となってしまって、ちょっと物騒なお話になります。

つまり「肺炎と診断されたが、実は違っていた入院患者について」ということですね。

なかなか攻めてきました。

時々、自分たちのやっていることを批判的かつ第三者的に検証するのは、医療界にとって意義のあることだと思います。

ところで、肺炎は私たちがよく耳にする病名です。

シンプルな病名と比較して、現実はかなり複雑な様相を呈します。

今回は、米国ミシガン州の48の病院で行われた前向きコホート研究を基に、その複雑さと影響について考察してみましょう。

この研究では、2017年7月1日から2020年3月31日までの間に市中肺炎(CAP)の治療を受けた入院患者が対象となりました。

カルテをもとにした調査結果から、「不適切な診断」がされた患者は、適切な診断を受けた患者に比べて年齢が高く、認知症や発症時の意識状態がよくないことが判明しました。

こうした「不適切な診断」は、当然ですが、肺炎以外の急性疾患や慢性疾患、あるいは新規の正しい診断が遅れてしまう可能性があります。

なぜ医師はCAPを誤って診断してしまうのでしょうか?

CAPは一般的な疾患であるため、医師は利用可能な情報に基づいて判断する傾向があります。

少しでも治療を早くしたいので、手っ取り早い診断に飛びついてしまうのです。

特に高齢者や認知症、意識変化を有する患者では、他の疾患と間違えやすくなります。

たとえば、認知症のある高齢者は、自分の症状をうまく伝えられないことが多く、医師は非特異的なデータ(例えば、白血球数の上昇や単独での発熱)に基づいて肺炎の診断を下してしまうわけです。

不適切な診断の予防と、患者への影響を最小限に抑えるためには、医師がより慎重なアプローチを取る必要があります。

また、診断後も、「本当にこれでよいのか」と、治療の効果を定期的に見直し、必要に応じて診断を再評価する柔軟性が重要です。

この研究を通じて、不適切な診断のリスクを認識し、患者に最善のケアを提供するための知識と技術を深めることを肝に銘じていきたいものです。

 

元論文:

Gupta AB, Flanders SA, Petty LA, et al. Inappropriate Diagnosis of Pneumonia Among Hospitalized Adults. JAMA Intern Med. Published online March 25, 2024. doi:10.1001/jamainternmed.2024.0077