初期研修医の頃には、感染症グループの先生に怒られまいと、発熱した患者さんの詳細な病歴、身体所見、喀痰や尿などの検体の塗抹検査、培養を準備してプレゼンをし、抗生剤を決めてもらったものでした。
根拠ない抗生剤の選択ほど、怒られたことはなかったのです。(実際、今でも当時を思い出すとトラウマ級です。)
そうやって、感染症と戦うための「武器」をどのように、いつ、どれだけ使えば良いのかを学んだのでした。
感染症専門医の存在は、正しい抗菌薬の選択を行うための、重要な指導者であり監視者でした。
最近の研究により、抗菌薬管理(Antimicrobial Stewardship、以下AS)教育が、まさにそのような状況での感染症専門医の役割を浮き彫りにしています。
この研究は、日本全国の研修医を対象に、感染症専門医の教育が彼らの抗菌薬に関する知識や態度にどのような影響を与えるかを調べたものです。
調査結果は興味深いものでした。
教育を受けた研修医は、抗菌薬の潜在的な害を理解し、無症候性細菌尿症に対して抗菌薬をいつ使用すべきか、クロストリジウム・ディフィシル感染症をいつ疑うべきか、また、ASとは何かを説明する能力が、教育を受けていない研修医に比べて有意に高かったのです。
さらに、感染症専門医による教育が、特に患者ケアを通じて行われた場合、研修医の抗菌薬に対する認識と態度を改善することが示されました。
これは、感染症専門医が、同僚医師の抗菌薬処方行動に、間接的にも直接的にも肯定的な影響を与えることを示しています。
この研究の背景には、抗菌薬の使用に関する知識や準備不足がある研修医が多いという現状があります。
感染症専門医は、これらの研修医に対する教育を行う重要な役割を持っていますが、その貢献に関するデータはこれまで限られていました。
今回の研究は、そのギャップを埋めるものです。
この研究から得られた教訓は、感染症専門医が教育者として持つ価値の重要性を強調しています。
彼らは、知識と技術の橋渡しをするだけでなく、研修医たちが適切な判断を下すための道しるべとなり、医療の質を高めるために不可欠な役割を果たしています。
今回の研究は、抗菌薬の適切な使用についての教育という、感染症専門医の貢献を明らかにしました。
医療の現場では、このような教育が今後も続けられることが望まれるものです。
この研究が、徳田安春先生からの発信であることも納得です。
元論文:
Miwa T, Okamoto K, Nishizaki Y, Tokuda Y. Infectious Disease Physician Availability and Postgraduate Antimicrobial Stewardship Education in Japan. JAMA Netw Open. 2024;7(3):e244781. Published 2024 Mar 4. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.4781