今日の話題は「共有意思決定(Shared Decision Making : SDM)」について。
SDMは、患者と医療提供者が、治療の選択を、「共同で」意思決定するプロセスのことを言います。
このプロセスは、患者の自己決定権を尊重し、個々の価値観や好みに基づいた医療を実現するための重要な手段とされています。
こう言うと「患者が決定権を持つのは当たり前じゃないか」と思うかも知れませんね。
けれども、医者と対峙した実際の場面を想像してみてください。
「私は医学のことをよく知らないし、先生もああ言っているし、よくわからないけど言われた通りにしておこうかな。」
そう思ってしまうのが大部分ではないでしょうか。
SDMは、患者が自分自身の健康に関する意思決定に積極的に関与することを奨励しています。
加えて、医療提供者は適切な情報を提供し、患者の価値観を尊重します。
しかし、SDMの実施度合いを評価する標準化された方法はまだ確立されていないのが実情です。
また、このアプローチには限界や課題も存在します。
まず、SDMは患者の健康リテラシーや情報理解能力に大きく依存してしまいます。
医療情報の複雑さや専門性が高い場合、患者が十分な理解を得ることが困難な場合があります。
特に、医療知識が乏しい患者や高齢者、言語的・文化的障壁がある患者にとって、SDMのプロセスはより複雑で難解になります。
加えて、医療提供者の時間的、資源的な制約もSDMの実施に影響を及ぼします。
十分な時間を確保して患者との対話を行うことは、忙しい臨床現場では常に可能ではありません。
この結果、SDMは理想的な状況では有効ですが、実際の医療現場ではその実施が制限されることもあります。
さらに、患者と医療提供者の間の価値観の違いや、患者の個人的な意向が治療方針と矛盾する場合、SDMのプロセスは複雑化します。
患者の希望が医学的に最適な選択ではない場合、医療提供者は患者の自己決定権を尊重しつつ、最良の医療を提供するためのバランスを見つける必要があります。
これらの課題に対処するためには、医療提供者と患者の「双方の」教育や支援が不可欠です。
患者の健康リテラシーを向上させる教育プログラムや、医療提供者のコミュニケーション技術の向上は、SDMの有効性を高めるための大きな鍵となります。
また、SDMを支援するためのツールやガイドラインの開発も重要です。
SDMは、患者中心の医療を実現するための強力な手段ですが、その実践には多くの課題が伴います。
SDMは、決して新しい概念ではなく、そのコンセプトは1990年代にさかのぼり、多くの国で発展してきたものですが、まだ十分に普及しているとは言えません。
元論文:
Bouniols N, Leclère B, Moret L. Evaluating the quality of shared decision making during the patient-carer encounter: a systematic review of tools. BMC Res Notes. 2016 Aug 2;9:382. doi: 10.1186/s13104-016-2164-6. PMID: 27485434; PMCID: PMC4971727.