黒い豆の謎:私たちの脳はなぜ小さな数字を良く理解するのか

 

小さなものが大きな意味を持つことがあります。

特に数の世界では、この言葉が顕著に当てはまるようです。

 

今日のお話の元論文はこちら→

Kutter, E.F., Dehnen, G., Borger, V. et al. Distinct neuronal representation of small and large numbers in the human medial temporal lobe. Nat Hum Behav (2023). https://doi.org/10.1038/s41562-023-01709-3

 

150年以上前、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズという経済学者が黒い豆を使った実験を通じて、私たちの脳が「4」までの数字を驚くほど正確に把握できることを発見しました。

豆を箱に投げ入れ、一瞥するだけで、彼は4個以下なら確実に数を当てることができましたが、5個以上になるとしばしば間違いました。

この現象は、単なる偶然や特異なスキルではなく、私たちの脳に根ざした深い仕組みを示しています。

しかし、数字をどうやって認識するのかということは、科学界で長年の謎とされてきました。

この研究では、この謎が一部解明されたようです。

人間の中脳辺縁系における「小さな数」と「大きな数」の表現が異なることを発見しました。

神経外科患者の中脳辺縁系の単一ニューロンを記録することで、研究者たちは、数字「4」を境に、「小さな数」と「大きな数」の処理に関わるニューロンの活動に明らかな違いを見出しました。

数「4」までの範囲では、ニューロンは周囲抑制と呼ばれるメカニズムにより、選択的な感度を示しました。

これは、注意力や作業記憶と関連があると考えられ、これらも同様に限られた容量を持つことが知られています。

一方で、数「4」を超えると、ニューロンの選択性は減少し、比率依存の数推定システムの特徴が見られました。

「4」まではしっかり数えているのに、それを超えると「ほとんどたくさん」という認識で済ませてしまうようです。

この発見は、数の認識における2つの異なるシステムの存在を示唆しています。

つまり、1つは数量を推定するもの、もう1つは「小さな数」の正確性を高めるものです。

何より「4」という数字を境にしていることが、面白いですね。

人の指は5本だから、「5未満」ということなのでしょうか。

興味深いのは、この「数の感覚」は人間だけにあるものではなく、動物界全般に見られる普遍的な特徴だということです。

サルやハチ、魚、カラスなど、多くの動物が生存戦略としてこの能力を持っています。

狩猟、食料探索、捕食者からの逃避といった行動は、しばしば数の感覚に大きく依存します。

この感覚は、動物が食料を見つけ、捕食者から逃れ、最終的には繁殖する可能性を高めるために重要です。

この脳の機能は、ただの算数以上のものを私たちに教えています。

何よりも、私たちが日常で使う「数」が、実は生物学的に深く根付いた、本能的な能力であることを教えてくれます。

数の世界は、私たちの脳にとって自然な一部であり、その複雑さとシンプルさの両方を同時に体現しているということですね。