群れから離れて一匹だけになったアリが、長く生きられないというお話は聞いたことがあります。
いわゆる、アリの「孤独死」とでもいうのでしょうか。
社会的孤立は、人間だけでなく、アリにも影響を与えるということです。
今回の研究では、アリの種類C. fellahを用いて、社会的孤立がどのように生理学的・行動学的影響を及ぼすのか調査が行われました。
元論文はこちら→
Koto, A., Tamura, M., Wong, P.S. et al. Social isolation shortens lifespan through oxidative stress in ants. Nat Commun 14, 5493 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-41140-w
まず、研究者たちは行動追跡とRNA-シークエンシングを用いて、社会的な群れと孤立した状態でのアリの遺伝子発現を比較しました。
何が出てきたかというと、社会的孤立が引き起こす生理学的・行動学的な変化は、主に「酸化還元酵素」の遺伝子発現と「反応性酸素種(ROS)」の蓄積によるものでした。
「反応性酸素種(ROS)」とは、細胞の代謝過程で自然に生成される酸素の一形態です。
少量ならば問題ありませんが、過剰になると細胞にダメージを与え、最終的には寿命を縮める可能性があります。
さらに興味深いことに、このROSの生成が特に「脂肪体」や「oenocytes(肝細胞様細胞)」で高まっていることが確認されました。
この情報を元に、研究者たちは抗酸化物質(例えばメラトニン)をアリに投与しました。
すると、ROSの蓄積が防がれ、社会的孤立による寿命の短縮や有害な行動が改善されたのでした。
つまり、社会的孤立が体に与える負の影響を、物質的な介入で逆転させることが可能なのです。
この発見はアリに限らず、社会的な生き物全般に対して重要な示唆を与えています。
孤独や孤立が生物学的なレベルで影響を与え、それが健康に悪影響を及ぼす可能性があること。
そして、そのような状態からの「脱出口」もまた、生物学的なアプローチで見つかるかもしれないという希望です。
人間が感じる「孤独」も、生物学的には細胞レベルで何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。
もしそうだとしたら、次に孤独を感じたときには何か「抗酸化物質」を摂るといいのか、と考えてしまいますね。
アリによって突きつけられたこの問題は、単なる昆虫の話以上に、私たち人間にも大きな示唆を与えてくれます。