「ビアーズ基準」

 

医療のガイドラインのひとつに「ビアーズ基準」というものがあります。

(アルコールのビールとは関係ありません。アメリカの老年医学専門医のマーク・ビアーズの名前に由来しています。)

この基準は、高齢者の医療において非常に影響力のあるガイドラインのひとつです。

1991年に初めて専門家のコンセンサスパネルによって策定されたこの基準は、高齢者への不適切な薬物処方を評価する目的で用いられてきました。

リストには、高齢者で有害事象のリスクが高いとされる薬物が明示されていて、薬物は五つのカテゴリーに分けられています。

つい最近、そのアップデートがあったのですが、2023年版ではいくつかの主要な変更がありました。

新たな薬物が追加されたほか、一部の薬物がリストから削除されました。

これらの変更は、新しい臨床試験結果や疫学的データに基づいたものです。

例えば、心血管疾患の一次予防のためのアスピリンの開始は避けるようにと、変更されました。

すでにアスピリンを服用しているのなら、中止も検討するようにとすすめています。

このような最新情報の組み込みは、ビアーズ基準が時代とともに進化し、より信頼性の高いガイドラインであり続けるために不可欠なのでしょう。

科学的な観点から言えば、ビアーズ基準は医薬品の安全性と効果性に関する一つのバロメーターということになります。

2019年の研究によれば、ビアーズ基準に従った薬物処方が行われた場合、高齢者の転倒リスクが約20%低下すると報告されています(出典: Journal of the American Geriatrics Society)。

しかし、この基準には疑問点も多く、高齢者の体質や既存の病状によっては、必ず適用できるわけではありません。

そのような背景を考慮すると、ビアーズ基準の影響力は計り知れませんが、一方でその運用には慎重さが求められます。

医師や薬剤師は、この基準を参照しつつも独自の臨床判断を下す必要があります。

言い換えれば、ビアーズ基準は手続きを単純化するチートシートではなく、患者一人ひとりの状態を総合的に考慮するための一つの道具であると言えます。

高齢者医療において極めて重要な問題に対する一つの解答を提供しているものの、その解答は完璧ではありません。

確固たる答えを探し求めても、最終的には多様な解釈と柔軟な思考が求められます。