AIと医療統計学

 

医学の世界において、統計学は長い間、診断から治療、さらには予防まで多岐にわたる局面でその力を発揮してきました。

記憶の新しいところでは、新型コロナ感染症における流行予測がかなりの頻度で更新されていたのを覚えていることでしょう。

それが、ここ数ヶ月のうちに、新たに人工知能、通称AIが登場してきました。

この新参者は、医学研究においてもその影響を広げつつあります。

けれども単純に喜べないところがあります。お話は複雑なのです。

AIと統計学は、同じ目的に向かっているようでいて、その手法と考え方が根本的に異なるからです。

AIは、特に「特徴表現学習」において驚異的な能力を持っています。

例えば、ゲノムデータや医療画像から、人の目では捉えきれないような微細な特徴を抽出することができます。

これは、絵画の中の隠された線や色を見つけ出す鑑定人のようなものです。

しかし、この鑑定人は、答えの背後にある「なぜ」を説明するのが苦手です。

その結果、解釈が難しく、医学の現場での適用には慎重なアプローチが必要とされます。

一方で、統計学は「予測と集団推論」においてその真価を発揮します。

AIが個々の事例に対する予測に長けているのに対し、統計学は集団全体に対する因果関係や傾向を明らかにするのが得意です。

これは、一人一人の患者が持つ独自の症状やリスクを超え、より広い視野で医学的な問題にアプローチする方法です。

そして、AIと統計学の最も大きな違いは、それぞれの「一般性と解釈」にあります。

AIは非常に柔軟で、多くの問題に対応できますが、その柔軟性が仇となり、特定のデータセットに過度に適合してしまうことがあります。

これを「オーバーフィッティング」と呼びます。

一方、統計学はそのような過度な適合を避け、一般性を保つ方法を提供します。

このように、AIと統計学は医学研究において互いに補完し合う存在でありながら、その違いを理解し、適切にバランスを取る必要があります。

特に、多変量のデータセットに対するAIの有用性が指摘されていますが、その解釈と一般性については統計学の力が不可欠です。

このテーマに対する一つの確固たる結論はありません。

AIと統計学がどのように相互作用し、どのような課題や可能性を持っているのかを理解することで、医学研究がさらに進化する道が開かれるでしょう。

それは、未知の領域へ探査機を送り出すようなものです。

何が見つかるかはわかりませんが、その先には新しい知識と発見が待っていることは間違いがありません。

 

今回のお話の元記事はこちら→

Hunter DJ, Holmes C. Where Medical Statistics Meets Artificial Intelligence. N Engl J Med. 2023 Sep 28;389(13):1211-1219. doi: 10.1056/NEJMra2212850. PMID: 37754286.