「口腔内体温の正常値を明らかにする」

 

医学の世界は日進月歩で進化しています。

「進化」と言ったら、遺伝子工学とか免疫系とか、1回説明を聞いただけではすぐには理解できないような、複雑なイメージがあるかも知れませんね。

ところが、日常的に遭遇するちょっとしたことを積み重ねていくのも、また「医学の進歩」です。

今日紹介する論文は、そんな感じのテーマを取り扱っています。

 

元論文はこちら→

Catherine Ley, Frederik Heath, Trevor Hastie, et al. Defining Usual Oral Temperature Ranges in Outpatients Using an Unsupervised Learning Algorithm. JAMA Intern Med. Published online September 5, 2023.

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2809098

 

Catherine Ley博士とその研究チームが2023年9月5日にJAMA Intern Medに発表したものです。

この研究は「口腔内体温の正常値」を明確に定義しようというもの。

一般的に、体温計を口に入れるという行為は、医療検査の一部として行われていますが、意外にも「通常」や「正常」とされる温度範囲は、長い間あいまいなままなのです。

この研究はそのギャップを埋めるための一歩となるとみなされています。

この横断研究は、大規模な医療ケアシステム内の内科と家庭医学の部門の臨床訪問の情報を利用しました。

2008年から2017年までの期間に、温度測定を行った全ての成人外来患者が対象とされました。

研究の過程で、618,306件の患者訪問のうち、約36%が温度分布から極端に大きく外れていたり、薬物療法を行なっていたため除外されました。

最終的に分析したのは、396,195件で、これは126,705人の患者(女性が57.35%、平均年齢は52.7年)から構成されています。

この研究の最も興味深い部分は、通常の口腔体温が性別、年齢、身長、体重、そして測定時刻によって変動することを示唆している点です。

例えば、80歳の高身長で低体重の男性は朝8時に36.81°C、20歳の低身長で肥満の女性は午後2時に37.88°Cという温度範囲を示す…という具合です。

この研究は、通常の口腔内体温が個人差や時間帯によって変動することを明らかにしました。

これは、「個別化」のアプローチをさらに前進させるものです。

つまり、患者一人ひとりに最適なケアを提供するための新しい道を開く可能性があります。